第2051話 スプリガンと交流会3(4)
「・・・・・・俺との対戦希望者か?」
影人は魅恋と海公の姿に別段驚く様子もなくそう言葉を掛ける。影人は2人とクラスメイトだが、スプリガンの経験もあって他人のフリをするのは得意だし、またスプリガンの認識阻害の力もあって、2人が影人の正体に気づく事もない。ゆえに、影人はまるで初対面かのように2人に接した。
「あ、は、はい。それはそう・・・・・・なんだけど・・・・・・」
「あの・・・・・・僕たちのこと、覚えてないですか?」
「・・・・・・さあな。悪いが、光導姫と守護者の顔なんざ一々覚えていない」
魅恋と海公に対して影人は首を横に振った。もちろん嘘だ。影人はスプリガンの姿を2度、2人に晒している。だが、ここで覚えていると言うのは面倒な予感がしたし、何よりスプリガンのイメージに反しているような気がした。
「っ、私たちあなたに助けられたの! それも2回も! 私たち、あなたにずっとお礼を言いたかった!」
「だから、だから僕たちは光導姫と守護者になったんです!」
魅恋と海公はショックを受けた顔になりながらも、影人に向かってそう言ってきた。しかし、影人は表情を変える事はなかった。
「そうか。ご苦労な事だな。だが、俺からすればどうでもいい。それより、さっさと構えろ。お前らは俺と戦いに来たんだろ」
影人は魅恋と海公にそう促した。影人の冷たい反応に2人は再びショックを受けた様子になったが、次の瞬間にはキュッと顔を真剣なものに変えた。
「うん。分かった。なら、この戦いを通して・・・・・・!」
「僕たちのあなたに対する想いを伝えます・・・・・・!」
魅恋は虚空からモーニングスターを呼び出し、海公は虚空から少し大きめの片手剣を呼び出した。
「・・・・・・好きにしろ。後、お前ら2人で俺に掛かって来いよ。『巫女』は基本は1対1って言ったが・・・・・・俺は例外だ。1対1じゃ話にならないからな。俺の実戦相手としての役割は・・・・・・まあ連携の練習、それと理不尽なまでの力への慣れ・・・・・・ってところか」
「「っ!?」」
影人は風音が自分を実戦相手とした理由をそう結論づけた。影人は自分の身に身体強化の闇を纏うと、魅恋と海公に向かって金の瞳を向けた。影人の目を見た魅恋と海公は、その金の瞳からゾクリとした何かを感じ取った。2人は影人の言葉が挑発でも嘲りでも傲慢さから来るものではなく、単純な事実だと認識した。
「・・・・・・本気で来い」
影人が最後に2人に向かってそう言葉を送る。魅恋と海公は互いに顔を見合わせると深く頷いた。
「光導姫、マジカルスター・・・・・・行くよっ!」
「守護者、カイト・・・・・・行きますッ!」
魅恋と海公は自身の光導姫名と守護者名を名乗ると、影人に向かって一歩を踏み締めた。
『――皆さん、お疲れ様でした。これにて午後の研修を終了いたします。今日の研修の経験が、これからの皆さんの活動に役に立てば幸いです』
数時間後。「メタモルボックス」の力が解除され、すっかり元に戻った体育館内。変身を解き元の姿に戻った風音は、舞台上からマイクを通してそう宣言した。
「・・・・・・やっと終わったか」
体育館端の壁にもたれかかっていた影人が、どこか疲れた顔でそう呟く。実際、影人は疲れていた。




