第2046話 スプリガンと交流会2(3)
「そ、そう言えば風音。奴・・・・・・帰城影人はまだ来ていないのか?」
陽華たち、光司と暁理から離れた食堂端でうどんを食べながら、アイティレは対面に座っている風音にそう質問した。アイティレの顔はなぜか少し緊張しているようだった。
「帰城くん? ええ、多分まだ来てないと思うわ。彼は午後の研修から来てもらう形だから。どうして?」
「い、いや別に何でもない。その、少し話がしたいと思っただけだ」
「話? うーん、何か少し怪しいわね。私の乙女レーダーが何かを検知しようとしているわ。・・・・・・はっ!? 陽華ちゃんと明夜ちゃんから聞いた体育祭でのオシャレな格好、それにこの前の『しえら』での帰城くんに対する反応・・・・・・まさか、アイティレ。あなたも・・・・・・」
風音は何かに気づいたようにアイティレを見つめた。
「ち、ちち違うぞ!? だ、断じて私が帰城影人に好意を抱いたとかではなくてだな! と、とにかく何でもないのだ!」
アイティレは顔を真っ赤にさせるとパタパタと両手を振った。いつもクールで何事にも動じないアイティレがこんなに慌てふためいている様を初めて見た風音は、自分の勘が合っている事を確信した。
「そう、あなたまで・・・・・・帰城くんって本当に凄いわね。男子生徒から難攻不落と言われているあなたまで攻略するんだから。・・・・・・まあ、気持ちは分からなくないけどね。帰城くんって普段の見た目はちょっと暗いけど、素顔は格好いいし。スプリガン・・・・・・非日常の姿と日常の姿とのギャップも凄いし。あれはやられちゃう子がいるのも分かるわ。それに、言動はちょっと乱暴だけど実は凄く優しいし。それでいて、決めるところはしっかり決めるというか、格好いいところもみせてくれるし。・・・・・・何というか、実は女子が好きになる要素てんこ盛り系男子よね」
風音は真剣な顔で影人の事を分析しうんうんと頷く。風音は別に影人に対して恋愛感情は抱いていないが、年頃の女性として影人の事を高く評価した。
「それで、アイティレは帰城くんのどこにやられちゃったの? 私、気になるわ」
「な、なっ・・・・・・!?」
ずいと顔を近づけてきた風音にアイティレは真っ赤な顔でパクパクと口を開ける。混乱、衝撃、羞恥、様々な感情が一気に襲い掛かり、アイティレはパンクした。
「よーっす、お2人さん。こんにちは。隣いいかい?」
風音がアイティレを問い詰めていると、刀時が風音の隣に天ぷら蕎麦を乗せたトレーを置いた。
「っ、『侍』か・・・・・・! ちょうどいい所に来てくれた・・・・・・!」
「剱原さん・・・・・・はぁ、何でこのタイミングで来るんですか。最悪です。だからモテないんですよ」
「あれ、何で俺に対する反応がこんなにも両極端なわけ? というか、モテないのは関係なくない!?」
風音にジトっとした目を向けられた刀時は思わずそうツッコミを返す。刀時は「まあ俺がモテないのは事実だけどさちくしょう!」と言いながら席に着いた。
「そういえば、真夏ちゃんやらロゼちゃんやらは一緒じゃないんだな。2人とも今回は不参加?」
「はい。榊原さんは中間レポートがヤバいとの事で、ロゼはいま富士山にいるから参加出来ないとの事です。ソニアも今は日本にいるので参加の確認を取ったんですけど、今日はどうしても都合がつかないらしくて不参加です。あと、最上位ランカーで言うなら『死神』、案山子野さんも不参加だそうです。参加できる面目がないと」
「ふーん、そっか」
風音から答えを聞いた刀時は手を合わせ蕎麦を啜り始めた。
「ん、そうだ。もう1人聞きたい子がいたんだ。あの子も今日参加してるの? ほら、スプリガン・・・・・・って、あんまり言わない方がいいな。あの前髪の長い彼の妹さん」
周囲にいるのは全員光導姫と守護者。そして、スプリガンの正体は未だに一部の者たちしか知らない。刀時はその事を考慮し、ぼかす言い方に言い直した。先ほど、風音がスプリガンの事を影人の非日常の姿とぼかしたのも刀時と同じ理由だった。
「帰城さん? はちょっと帰城くんと被っちゃうわね。確か、下の名前は穂乃影さんだったわよね。はい。参加者リストに名前がありましたから、参加していると思います」
「帰城影人の妹か・・・・・・帰城影人は自分の妹には正体を告げているのか?」
「さあ・・・・・・その辺りは分からないわね。でも、帰城くんの性格からして開示はしていないんじゃないかしら」
アイティレの言葉に風音はそう見解を述べた。それから風音、アイティレ、刀時は適当な会話を交えつつ、食事を続けた。
そして、賑やかな昼休憩の時間は終わり、午後の研修が始まろうとしていた。




