第2043話 スプリガンと交流会1(4)
「ふん、別にいいだろ。俺は1人でこの辺りで修学旅行してるんだからよ。灯台下暗し。修めるべき学は近所にあるんだ。俺がいる理由は話したし、もういいだろ。じゃあ、俺は帰らせてもらうぜ」
影人は席から立とうとした。しかし、そんな影人を呼び止めたのは意外にも風音だった。
「あ、もう少しだけ待ってくれない帰城くん。実は、帰城くんに話したい事があるの」
「あんたが俺に話・・・・・・?」
風音に呼び止められた影人が訝しげな顔になる。影人は酷く嫌な予感を覚えた。
「ええ。話を聞いてくれるなら、デザートを奢るわ」
「あんたが俺を物で釣るか・・・・・・ますます嫌な予感がするな。だが、その提案は魅力的だな。デザートはまだ食ってなかったし。取り敢えず、話を聞くだけだぜ」
「ええ。それで構わないわ」
風音が頷く。最終的にしっかりと物で釣られた影人はイスに座り直すと、シエラにガトーショコラを注文した。
「で、俺に話ってのは何だ『巫女』」
水で喉を潤した影人が風音にそう聞く。風音は自分が注文したアイスティーをストローで啜ると、口を開いた。
「実は、今月末に大規模な光導姫と守護者の研修兼交流会を企画しているの。一応、学校の先生の許可はもらっているわ」
「え、そうなんですか!?」
「それは私たちも初耳ね・・・・・・」
「へえ、そんなのやるんだね」
風音の言葉に陽華と明夜、暁理が驚いた様子になる。風音は「ごめんね。実は、みんなにもいずれ話すつもりだったんだけど」と少し申し訳なさそうな顔を浮かべた。
「大規模な光導姫と守護者の研修と交流会ね・・・・・・それって世界中から光導姫と守護者を集めるのか?」
「いえ、取り敢えず企画しているのは日本の光導姫と守護者だけよ。でも、今回の研修兼交流会が成功したら、いずれは世界規模でもやってみたいとは光導十姫として思うけど」
「そうだな。世界中の光導姫と守護者が交流するのは意義がある事だ。私も、同じく光導十姫として風音に賛成だ」
影人の質問に風音が答え、アイティレは風音の言葉に同意した。
「ふーん・・・・・・でも、何でこの時期に交流会なんかやるんだ? 一応、デカい問題はもう過ぎ去っただろ」
既に闇奴を生み出すレイゼロールの問題も、この世界に破滅的な混乱をもたらそうとしたフェルフィズの問題も解決している。現在の問題は、あちら側の世界、つまりは異世界からの流入者くらいだ。
「確かに、帰城くんの言う通り現在大きな問題はないわ。でも、だからこそこの時期に研修と交流会を行う事が大事だと思うの。また大きな問題が起こらないとも限らない。そんな時にいつでも対処できるようにするためには、平時からの積み重ねや経験が必要になる」
風音は真剣な顔でそう言うと説明を続けた。
「それに、光導姫と守護者の対象が闇奴や闇人から【あちら側の者】に変わった事も、やはり1度議論、共有すべき問題だと思うの。これまでは色々と忙しかったりしてソレイユ様やラルバ様からの説明だけだったから。【あちら側の者】は全員が敵意を持って私たちに接してくるわけじゃない。いきなり知らない世界に迷い込んで不安や恐れを抱いている者たちも多い。戦って強制的に元の世界に戻す方法だけじゃなく、対話によって元の世界に返す方法も重要なの。光導姫と守護者の対象が闇奴・闇人時代の時は戦う事だけが対処法だったけど、今言ったみたいに現在はそうじゃない。その辺りの擦り合わせも、改めて皆で確認しておくべきだと私は思うわ」
「・・・・・・なるほどな」
風音の説明は少し長かったが、言わんとしている事は理解できた。風音の言葉には確かな説得力があった。少なくとも、影人はそう思った。
「いいと思います! 私、絶対参加します風音さん!」
「ええ。願ってもない機会だわ」
「そうだね。確かに参加した方がよさそうだ。僕も多分だけど参加させてもらうよ」
陽華、明夜、暁理が参加の意思を示す。アイティレは既に風音から話を聞き参加するつもりだったので、特に反応はなかった。
「ありがとう。もちろん、みんなの参加は大歓迎よ」
風音が3人に感謝の言葉を述べる。話を聞いていた影人は風音に向かってこう言った。
「あんたの話は分かったが、その話は俺に関係なくないか? 俺はスプリガンだ。光導姫でも守護者でもないぜ。いやまあ、影の守護者っちゃ守護者だが・・・・・・俺が特異な存在な事に変わりはないだろ」
ここにいる者たちや他の数少ない者たちが例外なだけで、多くの光導姫や守護者にとって未だにスプリガンは謎に満ちた人物だ。闇奴・闇人時代と変わった事といえば、実は味方だったという事くらいしか普通の光導姫や守護者は知らないのではないだろうか。
「そうね。確かに帰城くん、いえスプリガンは光導姫と守護者にとって特異な存在よ。一時は光導姫と守護者にとって敵でもあった。今は、スプリガンが敵ではないと光導姫や守護者たちは知っているけど・・・・・・それでも、まだ多くの光導姫や守護者はスプリガンに不審感を抱いているでしょうね」
「・・・・・・だろうな」
影人は当たり前といった様子で風音の言葉に頷いた。
「でも、帰城くんのスプリガンとしての経験は凄く価値があるものだと思うの。その経験はきっと、光導姫や守護者にとっても生かされるものになるはず。だから帰城くん。これはお願いなんだけど・・・・・・」
風音はそこで1度言葉を区切ると、影人の顔を真っ直ぐ見つめこう言った。
「帰城くんもスプリガンとして、交流会に参加してくれないかしら?」




