第2041話 スプリガンと交流会1(2)
「ん、ごめん。ウチのバイトがうるさくて。それで、注文は決まった?」
「はい。Bランチをお願いします」
シエラが影人の前に水とおしぼりを置く。影人はメニューを確認すると、そう答えを返した。Bランチはパスタがメインで、ミニサラダと好きな飲み物がついてくる。このパスタはシエラの気分で変わるいわゆる日替わりだ。そして、メニューに書かれていた今日のパスタはカルボナーラだった。
「飲み物は? いつも通りバナナジュース?」
「はい。それでお願いします」
「ん。ちょっと待ってて」
影人の注文を受けたシエラは頷くと厨房の方へと歩いて行った。影人は注文したメニューが来るまでの間、適当にスマホを眺めながら時間を潰した。
「お待たせ。Bランチ」
十数分後。影人の前にトレーに乗ったランチが置かれた。トレーにはカルボナーラとミニサラダ、そしてバナナジュースが乗っていた。
「ありがとうございます。いや、マジで美味そうですね。俺、シエラさんのカルボナーラはまだ食べた事ないので楽しみです」
「カルボナーラはそんなに自信のある料理じゃないけど・・・・・・君の期待に応えられるといいな」
影人の言葉を受けたシエラが小さな笑みを浮かべる。影人は手を合わせると、フォークを手に取り、出来たてのパスタにフォークを入れくるくると巻き始めた。そして、それを口に入れた。
「美味ぇ・・・・・・」
咀嚼しじっくりとカルボナーラを味わった影人は思わずそう言葉を漏らす。クリームソースのコク、ブラックペッパーのアクセント、チーズの風味、全てが渾然一体となっている。影人は厚切りベーコンをフォークで刺すと、それも口に運んだ。ベーコンの旨味と塩辛さが体に染み渡る。
(ああ、最高だ。修学旅行をサボって1人で優雅に孤◯のグルメ・・・・・・俺は今間違いなく生を堪能している・・・・・・)
常人とは感覚が異なる前髪の化け物は幸福感に包まれていた。人間、ここまでおかしくなれるのだから恐ろしい。
「美味かった・・・・・・」
パスタとサラダを食べ終わった影人は満足そうな様子で残っていたバナナジュースをストローで啜った。気づけば、影人以外の客は既に会計を済ませ出て行っていた。影人は店内に流れクラシック音楽を耳で楽しみながら至福の時間を過ごした。
「さて、そろそろお暇するか・・・・・・」
影人はポケットからサイフを取り出そうとした。Bランチの価格は税込850円。パスタにサラダ、それに好きなドリンクも込みでこの価格は破格だ。以前、影人はシエラに本当にこの値段で店の経営は大丈夫なのかと聞いてみたが、シエラは「色々頑張ってるから大丈夫」と言っていた。影人たち客からすれば嬉しい限りだ。
「シエラさん、お勘定をお願いします」
「何だ。貴様もう帰るのか。せっかくだ。帰る前にコーヒーを頼んでいけ。特別にこの俺が注いでやる。俺様のコーヒーの感想を聞かせろ」
影人がシエラにそう告げると、シスが口を挟んできた。シスはコーヒーにハマっており、影人がここに来ると、事あるごとに影人にコーヒーを勧めてくるのだ。
「悪いけど遠慮する。俺、コーヒーは苦手だしな。というか、前から言ってるだろ」
「貴様は変わらず愚かだな。コーヒーの美味さに気づかんとは。バカ舌にも程があるぞ」
「バカ舌で悪かったな」
わざとらしく嘆くシスに少しの苛立ちを覚えながらも、影人はシエラに代金を渡した。シエラは影人から預かったお金をレジに入れると、「ん、おつり」と150円を影人に渡してくれた。




