第2040話 スプリガンと交流会1(1)
「ふぅ・・・・・・ああ、最高だぜ・・・・・・」
10月中旬のとある日。時計が正午を過ぎる頃、影人は自分の部屋のイスに座りながら小説を読んでいた。窓の外に映る空模様こそ鼠色で小雨も降っているが、影人は気にならなかった。雨の日に読書。これもまた乙なものだ。
(今頃春野たちは沖縄か。まあさっき沖縄の天気予報調べたら晴れだったから大丈夫だろ)
影人はミステリ小説をめくりながらそんな事を考えた。2年生は今日から修学旅行で沖縄に行っている。影人は去年も使った伝家の宝刀、仮病を使い修学旅行を休んだ。
日奈美や穂乃影は去年だけでなく今年も影人が修学旅行を仮病で休むと言った時、もはや救えないモノを見るような目で影人を見つめてきた。結局、2人とも影人が意見を変えることはないと知っているので諦めた様子になっていたが。こうして、前髪野郎は家族の許可を得た元(正確には許可とは言わないが)、堂々とサボっていたのだった。
「そろそろ腹が減って来たな・・・・・・母さんが昼飯代置いててくれたし、外に食いに行くか」
スマホで時間を確認すると、時刻は午後1時前になっていた。影人は栞を挟みテーブルに置くと、リビングに向かった。そして、リビングのテーブルの上に置かれていた1000円札を取ると、部屋に戻り外出の準備を整えた。
「行ってきます」
今日は平日なので家には影人以外誰もいない。誰もいないが癖的に影人はそう言って家を出た。
「さて、どこに何を食いに行くか・・・・・・」
傘を差しながら適当にその辺りを歩き回りながら、影人は昼食に対する考えを巡らせた。コンビニは少し味気ない。かと言って、雨なのであまり遠出をするのも面倒だ。
「・・・・・・決めた。『しえら』に行こう」
あそこのランチは安くて美味い。何度か「しえら」でランチを食べた事がある影人はその事をよく知っていた。影人は喫茶店「しえら」を目的地として、濡れたアスファルトを踏みしめた。
「こんにちは」
約20分後。影人は喫茶店「しえら」に辿り着いた。影人は傘を外の傘立てに入れ、入店した。
「・・・・・・いらっしゃい。適当な所に座って」
影人が中に入ると、店主であるシエラが影人にそう言ってきた。影人は空いていたカウンター席に腰を下ろした。店内は影人の他には、老齢の男性が1人カウンターに、中年の女性が2人テーブル席に座っていた。
「何だお前か影人。ふん、相変わらず陰気な面構えだな」
「陰気で悪かったな。お前こそ相変わらず偉そうだなシス」
影人がカウンターに座ると、カウンター内にいたシスが影人にそう言葉を掛けてきた。
「はっ、しかしすっかり馴染んだもんだな。くくっ、エプロン姿似合ってるぜ。バイト君」
影人はニヤニヤと笑いながらシスの全身を見つめた。シスは白いシャツに紺のエプロンという、いかにも喫茶店のアルバイトが着るような格好をしていた。そして実際、シスは喫茶店「しえら」のアルバイトだった。
「どうやら死にたいようだな貴様は。よかろう、表に出ろ。貴様の亡骸を雨に晒してくれるわ・・・・・・!」
シスは怒りからピクピクと顔を引き攣らせた。今にも影人に襲い掛からんとする雰囲気だ。
「・・・・・・シス。無駄口叩いてないで仕事して。まだ食器洗い終わってないでしょ」
「うるさいぞシエラ。俺様に指図を――」
「うるさいのはそっち。これ以上言わせないで」
シエラは不機嫌な様子でシスを睨みつけた。ここでシエラを怒らせては面倒な事になると悟ったのか、シスは「ちっ! 覚えていろよ・・・・・・!」と悪態をつくと、食器を洗い始めた。




