第204話 謎の影と答え合わせ(2)
「あ? ここは・・・・・・・神社か?」
ドアの向こうに入った悪意はトンネルのような空間を抜け、目的の領域の中に入ることに成功した。
「暑い・・・・・・てことは季節は夏か。帰城影人の訳のわからん言葉の中に記憶って単語があったから、ここはあいつの記憶の中ってところかな」
頭上に燦然と輝く偽りの太陽を見上げ、悪意はキョロキョロと辺りを見渡した。
おそらく、ここはどこかの神社だ。悪意が立っている場所には石畳が敷かれており、正面には拝殿がありその奥に本殿がある。つまり悪意の立っている場所は参道だ。
自分の後方を見てみると、そこには朱色の鳥居があった。だが、その鳥居より先の空間は歪んでいる。あの歪みから、悪意はこの空間に足を踏み入れたのだ。
「しっかし、えらく限定的な空間だな。さてさて、この空間のどこにあいつの弱みがあるのかね」
悪意はとりあえず参道を進んで拝殿を目指した。よくある作りで、神社の周囲は森に覆われており、悪意から見て参道の右には大きな石がある。別段、不思議なところのないただの神社だ。
「あーん? 別に拝殿も賽銭箱にも変わったところはねえ・・・・・・・・・ちっ、どういう事だ? あいつの反応からして、ここには何かあるはずなんだがな」
だが、いくら探してもそのようなものは見つけられなかった。もしかして担がれたか。いや、この領域が封印されていた事実からも、やはりそれはない。
ではいったい――
悪意がとりあえずこの閉じた世界の中心、参道の真ん中に戻ろうと歩いていたその時、
悪意の左の視界端にある影が映ったような気がした。
「っ!?」
悪意はその方向に向き直った。一瞬、見間違いかと思ったが、そうではない。あの大きな石の上に影が俯いて座っていた。
それは影としか形容できないものだった。人型をしているが、その全身は黒色に塗りつぶされている。しかし、そのシルエットからおそらく女であろうといことは分かる。その証拠にシルエットはところどころ丸みを帯びた部分があるし、髪は腰ほどまでに長い。
(なんだよ、あれ・・・・・・・・・・)
悪意は気がつけばその影から目を離せなかった。先ほどまでは、確かに存在していなかったその影はいつの間にか、有無を言わせぬ存在力を持って、その場に出現していた。
悪意がずっと見つめていたからだろうか。俯いていたその影は、こちらに気がついたのか、ゆっくりとその面を上げていく。ダメだ、あれと目を合わせてはいけない。悪意の本能が最大限の警鐘を鳴らす。
だが、悪意はまるで凍ったように体と視線を動かす事が出来なかった。金縛りにでもあったように、悪意は瞬きもせず、棒立ちで影を凝視し続ける。
(ははっ・・・・・・なんだよこれ。まさか、俺が怖がってるのか? ありえないだろ、俺は、俺はそんなに弱くねえ・・・・・・・・!)
しかし、悪意の意志とは裏腹に、仮初の体からは冷や汗が流れ出し、震えが止まらない。そして、影は完全にその面を上げた。




