第2036話 熱血、ドキドキ、体育祭3(2)
「・・・・・・『提督』のサンドイッチ、正直美味かったな。まあ、サンドイッチを不味く作る方が難しいかもだが・・・・・・」
昼休憩も終わり、体育祭午後の部が始まろうとしていた。運動場の端の日陰に陣取っていた影人は、先程アイティレから渡されたサンドイッチの事を思い出していた。
ロゼが言っていたようにアイティレはサンドイッチを用意しており、それを影人に渡してきた。いや、正確には渡してきたというよりかは、押し付けてきたという感じだろうか。
影人は最初、割と真面目に毒でも盛られているのではないかと考え、受け取りを拒否しようとした。だが、ロゼやいつの間にかロゼからその事を聞いていたらしい陽華と明夜、ついでに暁理が、受け取らなければ影人が留年している事を全生徒にバラすと影人を脅したため、影人は渋々アイティレのサンドイッチを受け取った。食べ物を粗末にするわけにもいかないため、影人は毒を食らわば皿までの気持ちでサンドイッチを食べたのだが、サンドイッチには毒は盛られていなかった。
「しかし、本当に『提督』の奴はどうしちまったのかね・・・・・・前はあんなに笑う奴じゃなかっただろ。俺がサンドイッチの感想伝えたらニヤけてたし・・・・・・何か悪いモノにでも憑かれたのか?」
影人は本気でその可能性を考えた。ここ最近でアイティレの様子が変わった理由を説明しようと思えば、それくらいしか考えられない。憑き物落としはいったいどうすれば出来るのか。
『お前って奴はアレだよな。本当にアホだよな。致命的なまでにアホだ。まあ、見てる分には面白いから全然いいがよ』
「っ、急に何だよイヴ。お前が罵声を浴びせてくるのはいつもの事だが・・・・・・お前、その言い方だと、『提督』の奴が変わった理由に心当たりがあるのか?」
突然語りかけてきたイヴに影人は首を下げそう聞き返す。イヴの本体であるペンデュラムだが体育祭という都合上、ポケットに入れていては落としてしまう可能性があるため、影人はペンデュラムを首に掛け体操服の下に仕舞っていた。
『まあな。多分だがお前以外なら誰でも分かる理由だぜ。だけど、絶対教えてやんねえ。お前は俺とか他の奴らを含めた観客のためにせいぜい面白おかしく生きろ。ラノベ主人公。そんで死ね』
「あ、おいイヴ! ったく・・・・・・意味が分からん」
イヴは一方的にそう言うとだんまりになった。こうなったイヴは基本的に影人の呼びかけに応える事はない。影人はもやもやとした気持ちを抱きため息を吐いた。
『さあさあさあ! それでは皆さん風洛高校体育祭、午後の部を始めちゃいますよー! 午後の部1発目の種目は1年生の団体競技! 綱引きです!』
すると、そんなアナウンスが影人の耳を打った。影人が運動場中央に前髪の下の目を向けると、1年生が入場を始めていた。
「綱引きか・・・・・・あれ、普通に疲れるしダルいんだよな。そう考えると、まだ玉入れの方がマシだな」
風洛高校の団体競技は学年ごとに決まっている。1年生は綱引き、2年生は玉入れ、3年生はリレーだ。影人は去年玉入れを経験し、本来ならばリレーをする歳なのだが、留年したのでまた玉入れをやらなければならない。




