第2033話 熱血、ドキドキ、体育祭2(4)
「ふっ・・・・・・ええ、そうですね。ついでに白組にも勝ちましょう。負けるよりかは勝つ方が気分がいいですからね」
影人は前髪の下の目を白組に属している陽華、明夜、イズに向けた。影人の言葉にはどこか挑発の色が含まれていた。
「おっ、言ったわね帰城くん。宣戦布告と受け取るわよ。こっちも負けるつもりは毛頭ないんだから」
「そうだよ! 勝つのは私たち白組なんだから!」
「この行事の勝利に意味はないように思いますが、あなたに負けるというのは癪に障りますね」
影人の言葉を聞いた明夜、陽華、イズが対抗心を燃やす。今度は白組の3人の言葉を聞いた、赤組の暁理、魅恋、海公がこう言った。
「僕もそこだけは影人に同意かな。悪いけど、勝つよ」
「パイセン達には悪いですけど、ウチら負ける気ないんで!」
「か、勝つのは僕たち赤組です!」
白組と赤組の間にバチバチと見えない火花が散る。互いの間に散る見えない火花は青春の火花であった。
「っ、あ、あれ? そういえば、帰城さんの姿が・・・・・・」
「え? あ、本当だ! 影人いないじゃん!」
海公はいつの間にか影人が消えている事に気がついた。魅恋も驚いた様子で周囲を見渡した。
「逃げたね・・・・・・」
「逃げたわね・・・・・・」
「逃げたなあいつ・・・・・・」
「逃げましたね」
一方、影人の事をよく知っている(イズだけはある程度といった感じだが)、陽華、明夜、暁理、イズは呆れたようにそう言葉を漏らした。
「・・・・・・俺の名前は影人。影のような人間だ。影の如く消えるのなんざワケはないのさ」
他方、上手い具合に逃げた前髪野郎はよくわからない事を言っていた。
(しかし危なかったな。あのままあそこにいたら今頃どんな面倒な事になってたのか想像できん。面倒事は基本は逃げるに限るぜ)
本当に人として終わっている前髪は先ほどのイベントを面倒事と切り捨てた。人間、成長する者もいれば成長しない者もいる。そして、前髪は間違いなく後者であった。
「さて、どうするか。さっきの体育館裏に戻ってもいいし、ソウルメイトの勇姿を見届けに行ってもいい。確か、昼休み前の騎馬戦にAとBとEが出場するって言ってたしな。・・・・・・よし、決めたぜ」
影人は少しの間考えを巡らせると、運動場の方に足を向けた。せっかくだ。ここは魂の友たちの戦いを観戦しよう。
「っ、帰城影人。探したぞ」
影人が運動場に戻り、観客席の近くを通りかかると声が掛けられた。影人が声の方向に顔を向けると、そこにはアイティレの姿があった。アイティレは白を基調とした可愛らしい私服姿だった。髪型もいつものストレートではなく、両サイドの髪を括ったツインテールだった。
「・・・・・・・・・・・・何やってるんだお前。いや、というか、その格好はどうしたんだ・・・・・・? イメチェンか・・・・・・?」
アイティレの姿を見た影人はたっぷり数秒間無言になると、戸惑った様子でアイティレにそう聞いた。
「い、いや陽華と明夜から体育祭があると聞いてだな。それで、たまたま今日私が通う学校が休みで、君が躍動する様を見たかったから・・・・・・い、いやそんな事が理由ではないぞ。そこは違う。断じて違うのだ」
「? よく分かんねえな。何でそんなあたふたしてるのかも分かんねえし・・・・・・」
赤面しながらわたわたと手を振るアイティレ。影人はそんなアイティレを見て不思議そうに首を傾げた。
「彼女をコーディネートしたのは私だよ。数日前に今日来ていく格好についての相談を受けてね」
アイティレと影人が話をしていると、同じく観客席にいたロゼが現れた。




