第2030話 熱血、ドキドキ、体育祭2(1)
「ケホッ、ケホッ、ちきしょうめ・・・・・・」
障害物競争を終えた影人は手洗い場で顔を洗っていた。障害物競争の飴食いが、粉だらけの中から手を使わずに飴を食べるというものだったので、競技者は全員顔と口の中が粉まみれになるのだ。影人は口の中に広がる粉の気持ち悪さと、飴の甘さ――味はグレープだった――を感じながら、水に濡れた顔を上げた。その際、前髪がべったりと顔に張り付いた。
「ちっ、タオル忘れたな・・・・・・めんどくせえ」
影人は顔に張り付いた前髪に不快感を抱きつつも、その場から去ろうとした。だが、そんな影人に声が掛けられる。
「お疲れ様! ナイスファイトだったよ帰城くん!」
「まあ、君にしては頑張ったんじゃない? 結果はビリだったけど、あんまり気にするなよ」
影人に声を掛けてきたのは陽華と暁理だった。影人は2人の方に顔を向けた。
「・・・・・・うるせえ。1位と3位が知ったような口を利くな」
「うわっ! 帰城くん前髪がワカメみたいになってるよ!? 大丈夫!?」
「うわぁ・・・・・・ヤバ、キモっ・・・・・・」
影人の顔を見た陽華は驚き、暁理はドン引きした様子でそう呟いた。本気を出して負けた悔しさ、実況役のせいで無駄に目立ってしまった事にイライラしていた影人は、2人のその反応に更にイライラした。
「ワカメでキモくて悪かったな」
影人はそれだけ言うと2人に背を向け歩き始めた。陽華と暁理はそんな影人の後をついてきた。
「・・・・・・何で着いてくるんだよ」
「え、だってせっかく帰城くんと一緒になれたし・・・・・・あ、そうだ。帰城くん、私のタオル使う? 濡れてるけど、まだ拭けはするはずだよ!」
「いらねえよ。汗くさいだろ」
「汗くさっ・・・・・・!?」
影人に一蹴された陽華がショックを受けた顔になる。そのやり取りを見ていた暁理は、ゴミクズを見るような目を影人に向けた。
「・・・・・・信じられない。女子に対してよくもそんなこと言えるよね。本当、人として終わってる。朝宮さんの使用後タオルなんて、本来だったら君みたいな前髪は使えないんだよ。少なくとも、他の男子だったら泣いて喜ぶか、奪い合いになるレベルなのに・・・・・・」
「んなもん知るか。というか、こいつのタオルにそこまでの価値はねえだろ。お前はウチの男子を何だと思ってやがるんだ・・・・・・」
暁理の言葉に影人は逆に呆れた。影人はそのまま人気の少ない場所まで歩くと、顔に張り付いた前髪を上げた。流石に前髪が顔に張り付いたままでは気持ちが悪かった。結果、普段は隠されている影人の素顔が露わになった。
「わっ・・・・・・」
「っ・・・・・・」
突然の影人の素顔に、陽華と暁理は目を見開いた。影人はそんな2人に逆に不審そうな目を向けた。
「・・・・・・なんだ。俺は見せ物じゃねえぞ。というか、お前ら俺の素顔なんざもう見慣れてるだろ。スプリガンの時と違うのは目の色だけだしな」
「い、いや、それとこれとは・・・・・・うわー、やっぱり帰城くん格好いい・・・・・・」
「うっ、僕とした事が影人を格好いいと思うなんて・・・・・・いや、でも水で濡れてるのはズルいし・・・・・・」
陽華と暁理は顔を赤くさせると、盗み見るように影人を見てきた。2人の言葉はかなり小さく、また急に2人が赤面した理由も分からなかった影人は「?」と首を傾げた。




