第2026話 熱血、ドキドキ、体育祭1(2)
「さて、どうやって時間潰すか。スマホは教室で、教室には鍵掛かってるし・・・・・・」
適当にその辺りをぶらついていた影人は少し悩む様子で軽く頭を掻いた。体育祭という事で、当然ながら影人や生徒たちは体操服姿だ。体操服にスマホを携帯するのは競技を行う時などに危険になるので所持は認められていない。そのため、現代人の暇つぶしの代表たるスマホは使えない。
「・・・・・・仕方ねえ。適当にその辺りで寝るか。どうせ、深寝入りはしないし、アナウンスくらいは聞こえるだろ」
影人はそう考えると人気がなく、かつ寝れそうな場所を探した。
「・・・・・・ここにするか」
しばらくの間彷徨った影人は体育館の裏側にあるスペースに目をつけた。この体育館裏には階段があり、その下にスペースがあるのだ。ちょうどコンクリートがひんやりしていて気持ちよさそうだ。影人はそう思いながら、腕を枕にしてゴロリとコンクリートに転がった。
(ああ、いいな。運動場から聞こえて来る喧騒がちょうどいいBGMだ。本当にちょうどいい・・・・・・)
影人は前髪の下の目を閉じた。そして、しばらくの間、微睡んだ。
「・・・・・・人さん。影人さん」
「・・・・・・ん?」
影人が微睡んでいると、自分の名前を呼ぶ声が聞こえてきた。影人はゆっくりと目を開くと、声のする方に顔を向けた。
「春野・・・・・・か?」
影人を呼んでいたのは海公だった。影人は上半身を起こすと、海公の名を呼んだ。
「はい。捜しましたよ。帰城さん、急にいなくなりましたから」
「ああ・・・・・・悪かったな。それで、俺に何か用か?」
すっかり目が覚めた影人が海公にそう聞く。海公は「いや、その・・・・・・」と困ったように笑った。
「すみません。特に用とかはないんです。ただ・・・・・・帰城さんと一緒に体育祭を楽しみたいなって。ごめんなさい。迷惑ですよね・・・・・・」
海公は自分の気持ちを素直に吐露した。自分で言っていても中々、というかかなり気持ちが悪い。少なくとも、海公はいきなりこんな事を言われれば面食らうだろう。だが、海公は影人に対して、自分の尊敬する人に対して嘘はつけなかった。
「・・・・・・春野、こう言っちゃなんだが、お前変わってるな。わざわざ、俺と一緒に楽しみたいなんてよ」
「そう・・・・・・ですかね?」
「ああ。間違いなくな」
軽く首を傾げる海公に影人はゆっくりと頷いた。
「確かに、俺は1人が好きだ。楽だからな。・・・・・・だけど、お前の気持ちは迷惑じゃないぜ。どっちかって言うと、お前の気持ちはむしろありがたい。ありがとうな春野。俺なんかを気にかけてくれて」
海公の素直な気持ちを聞いた影人は口元を緩ませると、自身も素直な気持ちで答えを返した。海公は影人の答えが意外だったのか、「帰城さん・・・・・・」と軽く目を見開いた。
「・・・・・・帰城さんって、やっぱり凄いですよね。真正面から素直な気持ちを伝えられるんですから」
「別に凄くはねえだろ。というか、それを言うならお前もだろ。お前も俺に素直な気持ちを教えてくれたじゃねえか」
「ふふっ、そうですね。帰城さん、少しお話しませんか? 僕、帰城さんのこともっとよく知りたいです」
「・・・・・・やっぱり、お前は変わってるよ。ああ、いいぜ。俺もちょうど暇してたところだ。お互いの競技の時間まで適当に駄弁るか」
影人がフッと笑う。そして、影人と海公は階段下のスペースで雑談を交わした。




