第2022話 文化祭と提督4(4)
「そこまでかよ? まあ、確かに何回も戦った奴からこんな事を言われるのは珍しいか」
影人は軽く頭を掻いた。すると、階下からこんな声が聞こえてきた。
「シェルディアちゃん、どう? 影人の奴の気配は近い?」
「ええ。もうすぐ近くまで来ているわ」
聞こえてきたのは暁理とシェルディアの声だった。
「っ!? ヤバっ・・・・・・」
2人の声を聞いた影人はそう呟くと、アイティレに対し、シーっと口元に指を当てるポーズをした。「静かに」や「隠し事」を意味するそのポーズを見たアイティレは「?」と不思議そうに首を傾げた。
「ふむ。人の気配を覚えられるとは何とも便利なものだね」
「影人さーん、どこですかー?」
ロゼとキトナの声も聞こえて来た。間違いなく、シェルディアたちは影人を捜している。影人の背に冷や汗が流れた。
「大丈夫か。君の事を探している人物がいるようだが・・・・・・」
「大丈夫だ。むしろ見つかる方がヤバい・・・・・・! いいか『提督』。出来るだけ静かにするんだ・・・・・・!」
「わ、分かった」
必死の形相を浮かべる影人にアイティレは気圧されコクリと頷いた。そして、影人とアイティレはジッと息を殺した。
「影人の気配はもうすぐそこなのだけど、この辺りに隠れるところはないわね。だとしたら・・・・・・上かしら」
「っ!?」
シェルディアのその言葉に影人が青ざめる。暁理は「上?」と言って階段を見つめた。
「この上は屋上への入り口しかないよ。その入り口も閉鎖されてるし。本当に影人の奴いるのかな」
「確かに、逃げ道がない場所をあの帰城くんが選ぶとは思えないね」
「まあ、確かめるだけ確かめてみましょう。いなかったらまたこの辺りを捜せばいいだけよ」
暁理とロゼの意見を聞きつつも、シェルディアは階段を登り始めた。シェルディアに続き、暁理、ロゼ、キトナも階段を登り始める。その音を聞いていた影人は絶望を感じた。
(クソッ、マズい。このままだと詰む。見つかったら終わりだ。仕方ねえ。こうなったら・・・・・・)
影人はポケットに手を入れるとある物を取り出した。シェルディアたちが階段を登って来る音はだんだんと近くなってくる。
そして――
「・・・・・・あら?」
シェルディアが屋上前の踊り場を視認する。しかし、そこには誰の姿もなかった。
「やっぱりいない感じだね」
「おかしいわね。影人の気配も同時に消えたわ。なぜかしら?」
暁理が首を横に振る。シェルディアも不思議そうに首を傾げた。
「・・・・・・間一髪だったな」
影人がホッとした様子でそう呟く。影人の姿は先ほどまでとは変わり、いつの間にかスプリガンの姿へと変化していた。
「っ、ここは・・・・・・」
急に景色が変わった事にアイティレは驚き、周囲を見渡した。先ほどまで校舎内だったが、今いる場所は外だった。
「ウチの高校の裏門だ。咄嗟だったから、転移場所を選べなかった。まあ、人気もないし咄嗟の転移先としてはマシだったな」
影人は周囲に人がいない事を確認すると小さく息を吐いた。
「私にはよく分からないのだが・・・・・・なぜ、スプリガンに変身して転移したのだ?」
「・・・・・・ちょっと事情があってな。それより、『提督』。変身したついでにお前に聞きたい事がある」
影人がアイティレにスプリガンの金の瞳を向ける。そして、影人はこう言った。
「お前の母親がいる場所はどこだ?」




