第2021話 文化祭と提督4(3)
「・・・・・・陳腐な感想になっちまうが、お前も色々と苦労してきたんだな」
「苦労をしていない人間などいない。皆、何かしら背負っているものだ。それを言うならば、君も相当に苦労してきただろう。正直、私とは比べ物にならないほどに」
アイティレは影人が背負ってきたものを全てではないが知っているつもりだ。零無との事、レイゼロールとの事、フェルフィズとの事。影人は人の身でありながら、およそ人の身には余る因縁を背負い続けて来た人間だ。加えて、現在もスプリガンという力を背負い続けている。正直、アイティレが影人と同じ立場だったら耐え切れないかもしれない。
「人の苦労に比べるもクソもねえだろ。確かに、俺は普通の人間と比べたら、中々にアレな経験をしてきた。だが、不幸自慢をする気はねえよ。だってダサいだろ」
「・・・・・・ふっ、確かにそうだな」
「ああ。でも、しょうもない不幸自慢をしてくるムカつく奴に対しては、不幸自慢してもいいかもな。スカッとするし」
「・・・・・・そういうのを一言余計というのだぞ」
アイティレは一転呆れたような顔を浮かべた。
「別にいいだろ。・・・・・・それより、話を戻すが・・・・・・お前が闇の力を扱うモノに激しい敵対心を燃やしてた理由も、レイゼロールを恨む理由も分かった。十二分な理由だ。その上で言うが・・・・・・お前、よくこの現状を受け入れてるな」
現状、レイゼロールをはじめとした闇サイドと、光導姫や守護者といった光サイドは敵対していない。先のフェルフィズとの戦いでは、共闘まで行った。
しかし、だからといって闇サイドと光サイドは完全に友好な関係を築いているとは言えない。そこには払拭し切れない過去の戦いの因縁があるからだ。アイティレも闇サイドとは清算しきれない因縁を抱えている。普通ならば、この微妙な現状に憎しみの声を上げたいはずだ。
「・・・・・・私も完全に納得し切れてはいないよ。ただ、様々な事情を考慮しているだけだ。光導十姫である私が表立って不満を露わにするのはよろしくない。どんな形であれ、古から続いて来た戦乱が終わり平和が訪れたのだ。先達の光導姫や守護者たちが払った犠牲の上に築かれたこの平和は壊してはならない。絶対にな」
アイティレが光導姫としての意見を述べる。そして、アイティレは少しだけ目を伏せこう言葉を続けた。
「後はそうだな・・・・・・レイゼロールの背負っていたものも理解できるものだったからな。彼女もフェルフィズという存在に踊らされた被害者だった。・・・・・・まあ、だからといってという話だがな。先ほど言ったように、私自身はまだ闇の力を扱うモノに対する敵対心も、レイゼロールに対する恨みも消えてはいない」
「・・・・・・それでも、そういう考え方が出来てる時点で凄えよ。大人だな。素直に尊敬するぜ」
影人は珍しく自身の素直な気持ちを吐露した。影人がアイティレに称賛の言葉を贈るのは初めてだ。
「・・・・・・まさか、君からそんな事を言われるとはな。正直、とても驚いた」
アイティレは言葉通り本当に驚いているようで、その赤い目を大きく見開いていた。




