第2002話 前髪野郎と光の女神3(5)
「今度は私が決めてみせます!」
ソレイユがドリブルで敵陣に向かって仕掛ける。だが、ソレイユの前に陽華とレイゼロールが立ち塞がる。
「ソレイユ様! すみませんけど、ボールをもらいます!」
「先ほどのようには抜かせんぞ」
「くっ! ラルバ!」
陽華とレイゼロールは激しくソレイユにプレスをかけた。流石に2対1はキツい。ソレイユは何とかボールを取られないようにしながら、後方にいるラルバにパスを出した。
「っ、行くしかないか・・・・・・!」
ソレイユからのパスを受け取ったラルバはドリブルでボールを運ぶ事を選択した。今の状況では、攻撃陣であるソレイユと真夏にパスを出す事は難しいと判断した。
「キベリア、ラルバに対処しろ」
「え、わ、私ですか?」
「お前は守備だろう。仕事をしろ」
「は、はいぃ・・・・・・」
ソレイユをマークしていたレイゼロールがキベリアにそう指示を出す。キベリアは泣きそうな顔になりながらも、ラルバとの距離を詰めた。
「え、えい!」
キベリアはラルバの持っているボールを奪おうと足を動かした。
「よっと」
だが、ラルバは華麗にキベリアの足を避けた。足を空振らせたキベリアは「きゃ!?」と体勢を崩した。
「一応、ソレイユほどじゃないけど、運動は得意な方なんだ。そう簡単には取らせないよ」
キベリアを抜いたラルバが青チームのゴールに迫る。だが、まだゴールまでは少し距離がある。シュートは狙えない。
「行かせません!」
ソレイユのマークをレイゼロールに任せた陽華がラルバに迫る。陽華のディフェンスは、キベリアのディフェンスとは比べ物にならないくらいに激しく、しつこかった。
「っ、やるね。でも、俺だって・・・・・・!」
長年の想い人にいいところを見せたい。分かっている。自分にそんな事を考える資格がないことは。ラルバが犯した大罪は未来永劫消える事はない。
「だけど、それでもッ! 俺だって男だ! そう簡単に諦め切れるもんか!」
ラルバが溢れ出る自身の想いを力に変える。ラルバは陽華よりも優っているフィジカルの強さを生かし、陽華を突破した。
「あっ!?」
「このまま決める!」
陽華を突破したラルバはそのままドリブルを行うと、右足を大きく振りかぶった。そして、ゴールに向かって渾身のシュートを放った。
「っ! はあッ!」
しかし、ラルバの渾身のシュートを光司がパンチングで弾いた。結果、ボールはコートの外に出た。
「連続でゴールはさせませんよラルバ様。僕もキーパーですからね」
「っ、やるな。光司・・・・・・!」
光司にゴールを阻まれたラルバが悔しげな顔を浮かべる。すると、イズがホイッスルをピッと鳴らした。
「赤チーム、コーナーキックです。キッカーはコーナーエリアに移動してください」
「よし、では私が行こう」
ロゼが手を挙げる。ディフェンダーがコーナーキックを蹴る場合カウンターが怖いが、ここはリスクを取ってでも得点が欲しい。コーナーキックは得点を狙える大チャンスだ。
「頼んだわよ『芸術家』!」
「必ずゴールを決めますねロゼ!」
真夏とソレイユはロゼにそう言葉を送った。ロゼは「ああ、任せてくれたまえ」と笑みを浮かべ、コーナーエリアに移動した。
「みんな! 頑張って守り切ろう!」
「コーナーキックはピンチだけど、カウンターのチャンスだわ。逆に得点を狙いましょう」
「ふん。言われずともそのつもりだ。キベリア、次は抜かるなよ」
「わ、分かりました・・・・・・」
陽華、明夜、レイゼロール、キベリアの青チームもそれぞれ配置につく。明夜はソレイユに、レイゼロールは真夏に、ラルバにはキベリアがついた。唯一フリーの陽華はいつでもカウンターが出来るように、少し離れた場所で待機していた。イズはピッと試合を再開する笛を鳴らした。
「では・・・・・・行くよ!」
ロゼがコーナーからボールを蹴った。ロゼの蹴ったボールは、美しい弧を描きながら空中を舞った。同時に、赤チームと青チームが動き始めた。
「決めてやるわ!」
「やらせるか・・・・・・!」
「ここで!」
「やらせませんよ!」
「次こそ!」
「あんただけには絶対に決めささないわよ!」
真夏、レイゼロール、ソレイユ、明夜、ラルバ、キベリアが宙を舞うボールに集中する。
ロゼの放ったボールは特定の誰かを狙ったものではなかった。ロゼの意図はゴール前のどさくさに紛れて、誰かがゴールする事だった。そして、遂にボールが落下し始め――
「やらせない!」
しかし、そのボールを光司がジャンプしてキャッチした。光司はゴールを守る事よりも、ボールをキャッチするというリスクの高い選択した。
「朝宮さん!」
「ありがとう香乃宮くん!」
ボールをキャッチした光司はすぐさまボールを陽華の方に向かって投げた。カウンターの準備をしていた陽華は、光司からボールを受け取ると一気に赤チームのゴールを目指した。
「ヤバっ!?」
「っ、影人!」
真夏が声を上げ、ソレイユが影人の名を呼ぶ。もはや、陽華と影人の一騎打ちは避けられない状況だ。
「決める!」
「やらせるか! 俺は円◯守だぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁッ!」
陽華がシュート圏内まで接近し、右足を振りかぶる。影人は右手を後方に引いた。
そして、陽華の必殺のシュートが放たれ、影人の神の右手がゴールを守るように突き出された。
「はあぁぁぁぁぁッ!」
「うおぉぉぉぉぉッ!」
陽華の放った必殺シュートが影人の右手に吸い込まれる。バチバチと火花が散り、貫く力と止める力が拮抗する。これぞ、まさに超次元サッカー。
――という展開になるはずもなく、陽華の放ったシュートは影人の右手に掠る事もなく、綺麗にゴールの右上に決まった。
「・・・・・・あ、あれ?」
影人は右手を前に突き出したまま、首だけ動かし自分の守っていたゴールを見つめた。ゴールの中にはしっかり闇色のボールが転がっていた。
「ゴール。青チームに1点追加です。そして、ちょうど20分が経過したので、前半戦はここまでとなります。10分の経過の後、後半戦を開始します」
イズが笛を鳴らしそうアナウンスした。
――というわけで、後半戦に続く。




