第2001話 前髪野郎と光の女神3(4)
「行くよ帰城くん! 勝負!」
陽華が右足を振りかぶる。言葉的には陽華がシュートを打って来る可能性が高い。だが、陽華が駆け引きをしないという選択肢はない。
(朝宮が右端、月下が真ん中、レイゼロールが左端。朝宮がパスを出すとすれば、レイゼロールよりも信頼度が高い月下の可能性が高い。これで実質2択。さあ、勝負だ)
影人は自身の勘も頼りにしつつ、陽華の挙動に注目した。陽華の足がボールに触れる。さあ、シュートかパスか。影人の緊張は最大限にまで高まった。
「レイゼロール!」
「っ!?」
陽華が選択したのは逆サイドのレイゼロールへのパスだった。1番可能性が低い選択肢が現実となった事に、思わず影人の顔が驚きに歪む。
「っ、いいだろう。責任を持って我が決めてやる」
陽華からパスを受け取ったレイゼロールは、一瞬自分にパスが回ってきた事に意外そうな顔を浮かべたが、すぐにいつもの顔に戻ると、右足でシュートを放った。
「っ、クソっ!」
レイゼロールへの警戒を意識的に排除していた影人が、レイゼロールの放ったシュートを止められるはずもなかった。レイゼロールの放ったシュートが赤チームのゴールネットを揺らした。
「ゴール。青チームに1点追加です」
「見事な連携ね」
イズがピッと笛を鳴らす。観戦していたシェルディアはパチパチと拍手をした。
「ふん。我にかかればこんなものだ」
得点を決めたレイゼロールがクールにそう呟く。そんなレイゼロールに向かって、陽華と明夜が近づいてきた。
「ナイスシュート! やったね、レイゼロール!」
「ベリベリナイスね。闇の女神の名前は伊達じゃないわね」
陽華と明夜が右手を小さく掲げる。レイゼロールは自分が何を促されているのかを知った。
「・・・・・・ふん」
レイゼロールは仏頂面ではあったが、パン、パンと2人にハイタッチを行った。
「うわっ、あのレイゼロール様が光導姫とハイタッチしてる・・・・・・」
「・・・・・・感動的な光景だね」
その光景を見たキベリアは信じられないといった顔を、光司は小さく笑みを浮かべた。
「っ、まさかあそこでレイゼロールの奴にパスするとはな・・・・・・」
一方、ゴールを守りきれなかった影人はボールをハーフウェーライン転がす。そんな影人にチームメイトたちが声を掛けた。
「ま、決められちゃったものは仕方ないわ。切り替えていきましょ! なーに、また私が点を取ってあげるわよ!」
「そうだね。私も次こそは抜かれないように努力するよ」
「俺も頑張るよ」
「ドンマイですよ影人!」
「・・・・・・ああ、ありがとう。俺も次こそはゴッ◯ハンドを決めてみせるぜ」
真夏、ロゼ、ラルバ、ソレイユの言葉を受けた影人はチームメイトに感謝の言葉を述べる。これが雷◯中の仲間か。暖かい。と、自分を円◯守と思い込んでいる前髪不審者はそう思った。前髪野郎如きが、あんな正統派主人公になれるはずがない。レ◯ルファイブに謝れ。
「現在1対1の同点です。青チームが得点したので、ボールは赤チームからとなります。では、試合を再開します」
イズが再びピッと笛を鳴らす。真夏はソレイユにパスを出すと、一気に敵陣に駆け込んだ。




