第2000話 前髪野郎と光の女神3(3)
「ふん、情けない。1人すら抜けんとはな。おい、こっちだ。ボールを寄越せ」
レイゼロールが陽華にパスを呼びかける。だが、陽華とレイゼロールを遮るようにラルバが割って入る。
「やらせないよレール。君も知ってるだろうけど、ソレイユは勝負に負けると不機嫌になるからね。八つ当たりはされたくないんだ」
「っ、ラルバ・・・・・・貴様、我を殺そうとしたくせに何を格好をつけている。調子に乗るなよ。何なら、ついでに長年のお前の想いをソレイユの奴に暴露してやろうか」
「それだけは本当にやめて!? あと、その節は本当にごめんなさい!」
ギロリとレイゼロールに睨まれたラルバが悲鳴を上げる。だが、ラルバは陽華からレイゼロールへのパスコースを防いだまま動きはしなかった。
「っ、陽華・・・・・・!」
「行かせないわよ!」
明夜は陽華を助けに行きたかったが、真夏が張り付いているため、中々助けに行く事が出来なかった。
「中々に苦しい状況だけど・・・・・・でも、頑張るよ!」
陽華は自身に気合いを入れ直すと、ロゼに対し激しくドリブルで揺さぶりをかけた。
「やるね・・・・・・! だが、そう易々と通せはしないな・・・・・・!」
しかし、ロゼは陽華の揺さぶりに置いていかれはしなかった。ロゼは陽華を抜かせず、逆にカウンター気味に陽華のボールを取りに行った。
「っ!?」
「もらったよ!」
ロゼのカウンターに陽華は驚いた顔を浮かべ、ロゼはボールの奪取を確信する。
だが、
「掛かったねロゼさん!」
陽華は次の瞬間にはニヤリと笑っていた。陽華は、スッとロゼの股の間にボールを通すと、そのままロゼを抜き去った。
「なっ・・・・・・!? っ、しまった。今のは誘いか!」
ロゼがその顔色を驚愕の色に染める。カウンターを仕掛けたつもりだったが、罠に嵌ったのはロゼの方だった。しかし、その事に気づいた時にはもう遅かった。
「っ!?」
ロゼが抜かれた事で、陽華が完全にフリーになる。それはつまり、赤チームのゴールキーパーである影人との距離がなくなっていくという事だ。影人はその顔に緊張の色を奔らせた。
「ヤバっ!」
「っ!」
陽華がロゼを突破した事に焦った真夏とラルバが、明夜とレイゼロールのマークを外し陽華の元へと走る。結果、明夜とレイゼロールがフリーになる。
「っ! ダメです真夏、ラルバ! それでは明夜とレールがフリーになります!」
敵陣にいたソレイユはその事に気づくと、自身もディフェンスに参加すべく自陣の方に向かって駆けた。
「ふん、もう遅い。光導姫、パスを寄越せ!」
「陽華!」
フリーになったレイゼロールと明夜が赤チームのゴールに向かって駆け出す。陽華は既にいつでもシュートを打てる位置にいる。オフサイドのルールもなく、明夜とレイゼロールもフリー。陽華はパスを出そうと思えば2人にパスを出す事も可能だ。
(ディフェンスは間に合わねえな。朝宮がシュートを打つか、朝宮からパスを受けて月下がシュートを打つか、はたまた朝宮からのパスを受けてレイゼロールがシュートを打つか・・・・・・3択か。中々に厳しいな)
なまじ、スプリガンの経験があるせいで、無駄に一瞬間の状況分析能力が高い前髪野郎は内心でそう呟く。
「はっ、いいぜ。俺が止めてやる。俺はゴールキーパー。最後の砦だからな」
しかし、影人はニヤリと笑うと腰を落としいつでも反応できるように神経を研ぎ澄ませた。来るなら来い。守護神の力を見せてやる。




