第1990話 前髪野郎と光の女神1(1)
「――最近、私は思うわけです。シトュウ様や零無さんにレール・・・・・・女神が多すぎて、自分がその陰に埋もれてしまっているのではないかと。特に、シトュウ様と役割がモロ被りしている現状に危機感すら覚えています。これは私のアイデンティティにも関わる由々しき事態です」
8月下旬のとある日。神界、ソレイユのプライベートスペース。周囲に暖かな光が満ちる空間で、この空間の主であるソレイユは真剣な顔でそう言った。
「・・・・・・そうか」
ソレイユの言葉を聞いた影人はどうでも良さそうな様子だった。
「何でそんなに興味ないみたいな反応なんですか!? 私の! 存在意義が! ピンチなんですよ!? もっと危機感を持ってください!」
「興味もねえし知らねえよ! つーかお前の存在意義って何だよ!?」
「女神で愚鈍なあなたを導く事です!」
「お前の存在意義はそれでいいのか!? つーか誰が愚鈍だクソ女神!」
「誰がクソ女神ですか!? 本当に本っっ当にあなたは不敬ですね! そんなんだから留年するんですよバカ前髪!」
「俺が留年したのはバカだからじゃねえ! ババアが偉そうに言うな!」
「バっ!? だ、誰がババアよ! どこからどう見ても年若い美女でしょうが! ぶち殺すわよ!」
「若作りの間違いだろうが! 何千年も生きてる奴を年若いとは言わねーんだよバカ!」
「影人ーーーーーーーーっ!」
「やんのかコラッ!?」
怒りのあまり素に戻ったソレイユが影人の胸ぐらを掴む。影人も負けじとソレイユの胸ぐらを掴んだ。そして、影人とソレイユは取っ組み合いのケンカを始めた。
「はあ、はあ、はあ・・・・・・こ、この卑怯者め。途中から神力を使って身体能力を上げやがったな・・・・・・」
「はあ、はあ、はあ・・・・・・す、少しだけです。私は優しいですからね・・・・・・もっと身体能力を上げていれば、あなたなんか簡単に捻り潰せていました・・・・・・」
「それを言うなら、俺もスプリガンになったら1発だったぜ・・・・・・」
「それは元々私の力でしょう・・・・・・」
数分後。大の字に寝転びながら、影人とソレイユは疲れた様子でそう言い合っていた。この2人のケンカはもはや日常の一部と化していた。
「・・・・・・まあ、正直お前の悩みなんざどうでもいい。俺を呼んだ用件は何だよ」
上半身を起こしながら、影人はソレイユにそう聞いた。影人がソレイユのプライベートスペースに来たのは、ソレイユに話があると呼ばれたからだ。
「・・・・・・今のが用件です」
「はあ!? そんなくだらない話でわざわざ俺を神界に呼びつけたのかよ!?」
「くだらなくありません! 別にいいじゃないですか! 大事な用件がある時以外にあなたを呼んではダメなんですか!?」
驚いた声を上げる影人にソレイユはそう反論した。ソレイユの反論を受けた影人は「っ・・・・・・」と一瞬言葉に詰まった。確かに、真面目な話題以外でここに来なければならないという訳ではない。むしろ、気軽に大した用事もなく、影人を神界に呼べるくらいに平和になったのだからいい事ではないか、影人はそう思ってしまった。




