第1988話 前髪野郎と闇の兄妹3(4)
「ふん、今やお前もその『終焉』の保持者だろう。しかも、兄さんの『終焉』の闇に対する習熟度までそのまま引き継いでいるのだろう。文句を言うな」
「いや言うだろ。つーか、俺が『終焉』を継承するハメになったのは、お前が俺を殺したからじゃん。文句しかねえよ」
「それを言うならば、お前も零無と戦う前に1度我を殺しただろう。神を殺すとは不敬極まりない」
「俺のあれは仮死だからノーカンだろ。こっちはガチで死んだんだぞ」
「まあまあ2人とも。1度死ぬくらいよくある事だから」
レイゼロールと影人は軽く文句を言うように、互いにそう言い合った。2人の態度と話の内容には、天と地ほどの温度差があるが、この場にいる者たちは全員1度死んだ事があるという、普通ではない者たちだったので、誰もツッコミを入れる者はいなかった。その証拠が、レゼルニウスの言葉であった。
「さて、この場所も堪能したし、そろそろ次の場所に向かおうか。いや、次というよりは最後という言い方の方が正しいかな」
「・・・・・・そうだな。この次の場所で、俺とレイゼロールの戦いは最後だ」
レゼルニウスの放った言葉に影人が頷く。零無と戦う前に、影人がレイゼロールを含む様々な者たちと戦った事も含めれば、影人とレゼルニウスの認識は正しくない。だが、影人とレイゼロールの対立の因縁が解消されたという意味では、影人とレゼルニウスの認識は正しかった。そして、その認識は言葉を発さなかったレイゼロールも共有していた。
「・・・・・・では行くか。我と影人が最後に戦った地へ。ただ、拠点に帰らなければならない事も含めると、我は今日これ以上の転移をするのは難しい。よって影人。最後の地への転移はお前が行え」
「・・・・・・お前、それ本当か? 世界中で闇奴増やしてた時期の事を考えると、お前もっと転移できなきゃおかしくねえか? しかも、カケラ全部吸収して、力は闇奴増やしてた時より増大して――」
「うるさい。我は疲れたのだ。さっさとしろ」
「・・・・・・へいへい」
影人は諦めたように軽く息を吐くと、ポケットから黒い宝石のついたペンデュラムを取り出した。
そして、
「変身」
と力ある言葉を放った。次の瞬間、黒い宝石が黒い光を発した。
「・・・・・・ほらよ、着いたぜ」
転移の力を使いロシアから移動した影人は、同じく転移した――正確には影人の力で転移した――レイゼロールとレゼルニウスに対してそう言葉を掛けた。
影人の姿は先ほどまで前髪野郎スタイルとは違っていた。夏だというのに、黒の外套を見に纏い、頭には鍔の長いハット状の帽子。深紅のネクタイに紺の長ズボン。黒の編み上げブーツを履いた、謎の怪人スタイルに影人の姿は変化していた。
そして、顔も上半分を覆っていた前髪が少し縮み目が露出していた。その目の色は月の如き金色だった。このもう1つの影人の姿は、その名をスプリガンといった。




