第1987話 前髪野郎と闇の兄妹3(3)
「うんうん、素直が1番だ。その調子でどんどん素直になろう。そして、その果てに君たちは結ばれ、やがて僕たちは本当に家族に――へぶっ!?」
レゼルニウスの顔面に闇色の腕の鉄拳が炸裂した。顔面を殴られたレゼルニウスは、バタリとその場に仰向けに倒れた。
「・・・・・・本当に口が過ぎる。我の兄はこんなに愚かではなかったはずなのだがな」
闇色の腕でレゼルニウスに制裁を下したレイゼロールは、レゼルニウスに冷たい目を向けた。その目には明らかに軽蔑の色があった。妹にそんな目をされたレゼルニウスは、
「レ、レールが僕を軽蔑しているなんて・・・・・・ああ、なんて悲しいんだろう。でも、・・・・・・愛する妹に冷たい目を向けられるのも悪くはない・・・・・・」
どこか恍惚とした顔でそう言うと、ガクリと力尽きたように目を閉じた。
「・・・・・・ダメだこりゃ」
そして、そんなレゼルニウスに、影人は呆れ果てたように軽く頭を抱えた。
「ふぅー・・・・・・ここは夏でもそんなに暑くないな。前来た時は真冬で、それこそ凍えるくらい寒かったが・・・・・・今はちょうどいい気温だぜ」
影人たちが次にやって来たのは、ロシアの最北であるムルマンスク州と呼ばれる場所であった。今はちょうど朝で、柔らかな朝日が雪原と海を照らしていた。
「そうだね。何なら少し肌寒いくらいだけど・・・・・・さっきまで暑かったから、今はこれくらいの気温が心地良いね」
影人の感想にレゼルニウスも同意した。レイゼロールは体温調節の力を使っているので、特に気温に対する感想は述べなかった。
「・・・・・・ここは我の最後のカケラを巡り戦った場所だな。我が『終焉』を含めた全ての力を取り戻した場所だ。そして、お前が我を裏切った場所でもある」
「お前まだ根に持ってるのかよ・・・・・・だから、それは悪かったって」
「ふん」
レイゼロールはそっぽを向いた。影人は正直「子供かよ」と思ったが、言えば確実にレイゼロールからの制裁が下るので、何も言わなかった。
「でも、この場所で起こった事には僕も胸が痛んだよ。影人くんがレールを裏切らなければならない理由はよく理解していたつもりだ。だけど、それでも・・・・・・悲しかったな」
レゼルニウスが朝日に照らされキラキラと光る水面に目線を落とす。あの時、過去から戻った影人がレイゼロールに正体を明かしても、恐らくレイゼロールは信じきれなかっただろう。全ての事情を理解して見ていたレゼルニウスにとっては、影人とレイゼロールが再び戦わなければならない状況に戻ってしまった事が、どうしようもなく辛かった。
「・・・・・・まあな。だが、世界ってのは残酷だ。あの時はああなるしかなかった。そう思うぜ。でもまあ、やっぱりカケラは奪取しておいた方が楽になってたとは思うがな。『終焉』はチート過ぎて普通に無理だろあれ」
実際に『終焉』の闇を喰らって死んだ影人がそうぼやく。影人はまだ自身の『世界』の特性が『終焉』に対抗できるものだったから、『世界端現』の力で辛じて戦いになっていた。
だが、そうでなければ戦いにすらなっていなかった。最終的に影人は1度死んでしまったが、『世界端現』がなければ、影人はもっと早くに死んでいたはずだ。




