第1985話 前髪野郎と闇の兄妹3(1)
「・・・・・・着いたぞ」
イギリスから転移を行ったレイゼロールが、影人とレゼルニウスにそう告げる。先ほどいたイギリスのロンドンは夜明け前で暗かったが、この場所は太陽が燦々と輝いていた。周囲には豊かな自然と長い岩がそびえたっていた。一言で言うならば、そこは秘境と称するのがピッタリな場所だった。
「ここは・・・・・・ああ、カケラがあった場所か。確か中国だったな。で、俺がレイゼロールサイドで初めて戦った場所でもある」
「ふん。スパイに入って来ただけだろう。言っておくが、我はまだあの裏切りを許したわけではないからな」
「いや、あれは仕方なかったんだって。あの時の俺とソレイユのプランはお前の信用を得て、カケラの1つを奪って、完全体じゃないお前を浄化するって作戦だったんだよ」
「ふん。言い訳など無用だ。お前が我を裏切った事実に変わりはない」
レイゼロールは変わらず不満と不機嫌を混ぜ合わせたような顔を浮かべたままだった。
「ははっ、レールは本当に可愛いな。影人くん、レールは拗ねているだけだよ。誰よりも信頼している君に裏切られたという事実が、レールにはどうしても悲しくて嫌なんだ。今こうして君と分かり合えていてもね」
「なっ・・・・・・ち、違う! 断じて違うぞ! 兄さん! 分かったような事を言うな! 勘違いするなよ影人! わ、我は別にそんな事は思っていない!」
レゼルニウスが放った言葉を、レイゼロールは赤面しながら否定した。レイゼロールは慌てながらも、今までと同じように闇色の腕を創造し、その腕でレゼルニウスに怒りの鉄拳を放っていたが、レゼルニウスもさすがは神。今回は、闇色の腕の鉄拳を軽く避けていた。
「ほー、そうかそうか。すっかり冷たい大人になっちまったと思ってたが、まだ可愛いところも残ってるじゃねえか。まあ、安心しろよ。俺はもう2度とお前を裏切らないし、勝手にお前の前から消えもしないからよ」
レイゼロールとレゼルニウスのやり取りを聞いていた影人がニヤニヤ顔になる。影人にそう言われたレイゼロールは、「〜っ!」とその顔を更に赤くさせ、ポカっと自分の右手で影人の肩を軽く叩いた。それは恥ずかしさからか、はたまた嬉しさからか。
「うーん。僕の妹は何て可愛いんだろう。影人くんもそう思うよね?」
「平然と同意を求めるな。兄バカめ」
幸せそうな顔でそう言ってきたレゼルニウスに、
影人は呆れたように言葉を返す。結局、レイゼロールが拗ねた事も関係してか、影人たちはすぐに他の場所へと転移したのだった。
それから、影人たちは次にカケラがあった場所であるアメリカを回り、その次にカケラがあったイタリアに来ていた。影人、レイゼロール、レゼルニウスは夜明け前のコロッセオの中心部に立った。




