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変身ヒロインを影から助ける者  作者: 大雅 酔月
1984/2051

第1984話 前髪野郎と闇の兄妹2(4)

「ここでレールと影人くんは2度目の戦いを行った。あの時はけっこう接戦だったね」

「・・・・・・それなりにはな。だが、あの時の我の目的はカケラの回収だった。目的を果たしたという意味では我の勝ちだ」

 レゼルニウスの呟きに同意しつつも、レイゼロールはそう主張した。

「うるせえ。あの時は色々噛み合わなかっただけだ」

「ふん。見苦しい言い訳だな。あの時はシェルディアも来ていた。シェルディアとお前が出会わなかったのは、ほんの偶然だ。そして、あの時点でお前とシェルディアが出会っていれば・・・・・・結果はどうなっていただろうな。それでも噛み合わなかったと言うのか?」

「ぐっ・・・・・・」

 影人は言葉に詰まった。確かに、あの時シェルディアと出会わなかったのは幸運以外の何者でもない。あの時、影人は既にシェルディアと知り合いだったが、それでも良くない結果にはなっていたはずだ。

「まあまあ、レール。あんまり影人くんをいじめちゃダメだよ。でも、気持ち分かるな。好きな人はいじめたく――」

 レゼルニウスが何か言おうとすると、レイゼロールが闇色の腕を創造し、その闇色の腕でレゼルニウスをビンタした。

「へぶっ!?」

 闇色の腕はかなり力を入れてレゼルニウスをビンタしたようで、レゼルニウスは軽く吹っ飛んだ。

「い、痛いよレール! 急に何をするんだい!?」

「・・・・・・ふん!」

 ぶたれたレゼルニウスは真っ赤な頬を押さえる。レイゼロールは不機嫌そうにそっぽを向いた。

「・・・・・・何かよく分からんが、多分お前が悪いぞレゼルニウス」

「そんな影人くんまで!? ううっ、現世は厳しいな・・・・・・」

 そして、恐山の頂上付近で、冥界最高位の神はガクリと項垂れたのだった。












「・・・・・・で、次はここか」

 先ほどまでの夏の太陽輝く空とは一転、空は夜明け前の暗いものだった。周囲は暗いが街灯が等間隔に灯っているので、真暗闇というわけではない。場所柄か、人の姿もチラホラと確認できる。影人たちがいるのはイギリス、ロンドンのとある橋の上。その橋の名はウェストミンスター橋といった。

「うん。レールの力のカケラを巡る戦い。その場所の1つ。ここでも影人くんとレールは戦ったね」

「ああ。あの時はダークレイやら『死神』やら冥やら色々とごたついてもいたな。あの時は橋壊してヤバいって思ったな。まあ、結局こうやって直ってるんだがよ」

 影人が橋を見渡す。そして、次に影人はイギリス、ロンドンの象徴でもある巨大な時計塔に目を向けた。

「・・・・・・確か、あの時計の針にカケラがあったんだよな。それで、俺がお前をあの時計塔に向かってぶっ飛ばして・・・・・・お前はカケラを吸収した」

「ああ」

「さすがにあそこはお前の機転勝ちだったな。あの時はやられたって思ったぜ」

「ふん。我はお前と違って頭がいいからな。・・・・・・と言っても、運の要素も大きかったのは間違いない。ゆえに・・・・・・それほど落ち込む必要はないぞ」

「別に落ち込んでねえよ。単純に振り返ってそう思っただけだ」

 影人とレイゼロールはあの時の事を思い出しながら、そんな会話をした。今でこそ、こうしてこんな会話が出来ているが、あの時は互いに暗い気持ちを燃やし戦っていた。まだ1年ほどしか経っていないはずなのに、影人とレイゼロールは時の経過を感じずにはいられなかった。

「・・・・・・本当に良かったよ。君たちが今そうやって話せている事が。僕たちいま、ある意味運命を辿っているけど、何かがすこしでも違っていれば、いまレールと影人くんはここにはいなかったかもしれない。奇跡・・・・・・ううん、違うな。そんな安っぽい言葉じゃない。運命に打ち勝ち、暖かな未来を手繰り寄せた、素晴らしき想いの力。その力が現在いまを形作ったんだ。本当に凄いよ」

 レゼルニウスがレイゼロールと影人に向かって微笑む。その言葉は、ずっと冥界から現世を見守ってきたレゼルニウスだから言えるものだった。

「・・・・・・別に我は何もしていない。今を形作る努力をしたのは・・・・・・全て影人だ」

「アホか。俺だけの力で今に繋がってるわけねえだろ。お前やレゼルニウスも含めた色んな奴らが・・・・・・それこそ過去から今に至るまで戦って来た光導姫や守護者、絶対にお前を救うって諦めなかったソレイユなんかを含めた全員の力が今に繋がってるんだよ。そこだけは勘違いするな」

 影人はしっかりとレイゼロールの言葉に反論した。影人は自分の力だけで暖かな未来を勝ち取ったなどとは自惚れていない。自惚れるほど愚かではなかった。

「・・・・・・そうか。そうだな。お前にしては珍しくまともな言葉だ」

「おい、それどういう意味だ? まるで、普段の俺がまともな言葉を吐いてないみたいじゃねえか」

「察しが悪いな。そう言っているのだ」

「なんだとてめえ!?」

 影人がレイゼロールに対して食って掛かる。その光景を見たレゼルニウスは思わず笑い声を上げた。

「あはははは。ああ、本当に楽しいなあ。でも、楽しい時間はまだまだこれからだ。ありがとう2人とも。じゃあ、次の場所に行こうか」

 レゼルニウスが影人とレイゼロールにそう促す。

 そして、数分後、影人たちの姿は夜明け前のロンドンから消えていた。

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