第1983話 前髪野郎と闇の兄妹2(3)
「分かっちゃいたが・・・・・・人が多いな」
次に、影人たちはレイゼロールの転移で、人の賑わう大通りに移動した。影人は往来を行き交う人々に紛れながら、そう呟いた。
「・・・・・・あの時は光導姫の人払いの結界があったからな。何なら、今から人払いの結界を張るか?」
「いや、それには及ばないよレール。これもまた自然だからね。そう、確かにここだったね。君たちが戦ったのは」
レゼルニウスは大通りをぐるりと見渡した。今から1年と少し前。レイゼロールは闇奴に罠を施し、スプリガンを誘き寄せた。そして、この場所でレイゼロールと影人は初めて矛を交えたのだ。
「・・・・・・あの時は普通に死にかけたな。なにせ、レイゼロールの戦闘情報が何もなかった。加えて、俺はイヴと契約する前だったから、力に制限が掛かってた」
「なんだ。我に負けた言い訳か」
「い、言い訳じゃねえし。そもそも、戦いにすらならない土俵だったってだけだ。あの時は戦闘経験も全然だった。その中であれだけ善戦したんだ。さすが俺だろ」
「それを言うなら、我とてカケラを吸収する前で本調子ではなかった。見苦しいぞ雑魚」
『おい影人。あの時お前が死ななかったのは、どう考えても俺のおかげだろうが。自惚れんなハゲ』
「誰が雑魚でハゲだ!? 俺は雑魚でもねえしハゲてもねえよ! 見ろフサフサだろ!?」
レイゼロールと会話を聞いていたイヴが同時に影人にそう言った。影人は即座に抗議の声を上げた。特に、ハゲというイヴの罵倒に対して強く抗議した。
「っ、なぜ急に頭部を見せつけてくる? それに、我はお前にハゲとは言っていないぞ。遂に気が違ったか」
「お前に言ったんじゃねえよ! イヴの奴に言ったんだ!」
レイゼロールは影人に哀れなものを見るような目を向けた。影人は再び抗議の声を上げた。
「あはは、賑やかだね。やっぱり影人くんは面白いな」
レゼルニウスはどこか珍獣を見るような様子で笑った。珍獣前髪野郎は「見せ物じゃねえぞレゼルニウスてめえ!」と獣らしく噛み付いた。
「うん。ここも堪能できたよ。レール、また移動をお願いできるかな?」
「ああ。だが、次はどこに行く気だ?」
「・・・・・・レゼルニウスの奴は、基本的には俺とお前が戦った場所を見たいんだろ。だったら、次はあそこなんじゃねえのか」
影人がレゼルニウスとレイゼロールの会話に口を挟む。そして、影人はその場所の名を2人に告げた。
「・・・・・・なるほど。確かに、ここは特殊な霊場だね。来て初めて分かるよ」
影人たちが次に訪れた場所は、東京から一気に離れた場所、青森県の恐山だった。頂上付近から山を見下ろしたレゼルニウスは、神として何かを感じたのだろう。そんな言葉を放った。
「へえ、分かるもんなんだな。さすがは冥界の神様だ。俺にはさっぱりだぜ。霊感がないんだろうな。まだ幽霊にも会った事がねえし」
「うーん。影人くんは事情が事情だからね。『空』様に聞いたけど、君の中には零無様、前『空』様にして、僕とレールの創造主の魂の一部があるんだろう? それほどまでに格の高い魂が中にあれば、霊の存在には逆に気づけないと思うよ。どう言えばいいのかな。君の中にある強い魂の波動が、霊の微弱な波動を掻き消すというか・・・・・・そういったものに対して、鈍感にならざるを得ない体質って感じかな」
レゼルニウスは影人に神らしい指摘を行うと、続けてこう言った。
「まあ、そもそも幽霊という存在がかなり珍しいから、中々出会わないという事実もあるけどね。ああ、でも君が悪霊なんかに憑かれる事は絶対ないからそこは安心して。君は一種の聖域みたいなものだから。そこらの霊が君に取り憑こうとしても、魂の格が強過ぎて、逆に霊を捕食して消滅させちゃうからね」
「それ、聖域って言えるのか・・・・・・? 何か零無の魂らしいというかなんというか・・・・・・」
霊を捕食して消滅させるという言葉を聞いた影人は、黒い影の零無がニヤニヤ顔で悪霊を喰らって消滅させる場面を想像した。何ともピッタリというか、想像しやすい光景だ。




