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変身ヒロインを影から助ける者  作者: 大雅 酔月
1980/2051

第1980話 前髪野郎と闇の兄妹1(4)

「で、どういう状況だよこれは」

 約5分後。影人たちは帰城家のマンションの近くにある公園の日陰にあるベンチに座っていた。夏なので日陰でもそれなり暑いはずなのだが、レイゼロールが周囲に、目には見えない冷却の結界を展開してくれたので暑さは全く気にならなかった。神力とは本当に便利なものである。ちなみに、座り順はレイゼロール、影人、レゼルニウスの順だ。炎天下という事もあってか、周囲に人の姿は見えなかった。

「いやー、僕、君の助言に突き落とされてフェルフィズと契約したでしょ。その時に、『フェルフィズの大鎌』で、冥界の神は現世に干渉できないっていう因果を殺してもらったから、自由に地上に来れるようになったんだよ」

「それは知ってる。イズの処遇を決める話し合いの時に聞いたからな。『フェルフィズの大鎌』に殺されたモノはシトュウさんの力でも戻らないから、永遠にそのままなんだろ。それで、狂喜乱舞したお前はちょくちょくレイゼロールに会いに来てる感じなんだろうが・・・・・・」

「・・・・・・ちょくちょくではない。ほとんど毎日だ」

 レイゼロールがそう口を挟む。レイゼロールの顔はどこか少し不満そうだった。

「え、そんな頻度でお前こっちに来てるのか? お前、一応冥界の1番のお偉いさんだろ。そんな頻度でこっちに来ていいのかよ?」

「大丈夫大丈夫。仕事は全部片付けて来てるし。それに、今までずっと見守る事しか出来なかったレールと会えるんだ。今の僕の最優先事項はレールに会うこと。本当だったら、ずっと現世にいたいくらいだよ」

 レゼルニウスはがふるふると首を横に振る。レゼルニウスの言葉を聞いた影人は、何とも微妙な顔になる。

「そ、そうか・・・・・・お前、シスコン・・・・・・いや、妹大好きお兄ちゃんだったんだな。お前の境遇と気持ちを考えれば分からなくないが・・・・・・でも、うーん。ほぼ毎日か・・・・・・」

「・・・・・・分かったか。これがお前が引き込んだ問題だ」

 影人が前髪の下の目をチラリとレイゼロールに向けると、それに気づいたレイゼロールが影人にそう言葉を返して来た。全てを察した影人は「あー・・・・・・」と納得した。

(いくら兄妹でも、毎日絡まれるのは嫌だよな。例え、それが蘇らせようとしていた兄でも。レイゼロールももうガキじゃないんだし・・・・・・)

 ただ、レゼルニウスの気持ちも分かる。ずっと見守る事しか出来なかった妹に、制限なく会えるとなればそれはもう気持ちが舞い上がってしまい、毎日でも会いたくなるだろう。影人も兄という立場上、レゼルニウスの気持ちはよく理解できた。

「ああ、そうだ。影人くん、レールの事を改めてよろしく頼むよ。僕がこの子を任せられると思っているのは君だけだ。なんなら、結ばれてお義兄さんと呼んでくれても――」

「っ・・・・・・!」

 レゼルニウスの言葉の途中で、レイゼロールは闇の腕を創造し、その腕でレゼルニウスを殴り飛ばした。突然殴られたレゼルニウスは「ぐはっ!?」と声を上げ地面を転がった。

「い、痛っ!? きゅ、急に何をするんだいレール!?」

「黙れ! 黙れ黙れ! いくら兄さんでも言っていい事と悪い事があるぞ! わ、我が影人と、その、む、結ばれるなど・・・・・・! 余計なお世話だ!」

 殴り飛ばされたレゼルニウスは訳がわからないといった顔を浮かべ、レイゼロールは顔を真っ赤にしてそう怒鳴った。レイゼロールが普段は敬愛する兄を殴り、かつこれほど感情を露わにし、また大きな声を出すなど、かなり珍しい事だった。きっと、それ程までに、レゼルニウスの言わんとした事が我慢ならなかったのだろう。

「で、でもレール。影人くんは、見た目からは考えられないくらいに人気なんだよ・・・・・・? うかうかしてると、誰かに取られて・・・・・・」

「〜っ! そういうのが余計なお世話だと言っている! これ以上余計な事を言うなら、我は兄さんを嫌いになるぞ!」

「なっ・・・・・・」

 レイゼロールにそう言われたレゼルニウスは絶句した。レゼルニウスにとって、今のレイゼロールの言葉はそれだけの衝撃を持っていた。

「ど、どうしよう影人くん・・・・・・い、妹が僕の事を嫌いになるぞって・・・・・・は、反抗期かな・・・・・・?」

 レゼルニウスは今にも泣きそうな顔で影人を見つめて来た。その顔に神としての威厳はない。影人は呆れたようにこう言葉を返した。

「いや、反抗期じゃねえだろ・・・・・・というか、レイゼロールの奴が反抗期なんていう歳なわけ・・・・・・痛い痛い! やめろレイゼロール! 頭をグリグリするな!」

 突然レイゼロールに頭をグリグリとされた影人が悲鳴を上げる。普段の前髪野郎は基本モヤシなので、神であるレイゼロールに敵うはずもなかった。

「ふん・・・・・・」

 レイゼロールは不機嫌そうに影人とレゼルニウスから顔を背けた。

「痛てて・・・・・・くそっ、レゼルニウス。お前のせいでバイオレンスを受けちまったじゃねえか」

「僕のせいなのそれ? 女神に歳のことを言った影人くんが悪いと思うんだけど・・・・・・」

 影人は未だに痛む頭に手を当て、レゼルニウスはヨロヨロと立ち上がる。そして、レゼルニウスは不機嫌そうなレイゼロールに向かって顔を向けた。

「ごめんよ、レール。気に障った事を言ってしまったみたいだね。本当、ごめん。君を不機嫌にさせるつもりはなかったんだ」

「・・・・・・分かったのならいい」

 レイゼロールは謝罪してきたレゼルニウスを許した。レイゼロールに許された冥界の最高位の神は、ニコリと笑った。

「ありがとう。じゃあ、気分転換も兼ねて今日は3人で現世を回ろうか。きっと楽しいよ」

「・・・・・・は?」

 急にそんな提案をしたレゼルニウスに、影人が思わずそんな声を漏らす。そして、レゼルニウスの提案を受けたレイゼロールは、

「・・・・・・分かった」

 そう返事をした。

「・・・・・・・・・・・・は?」

 影人は再びそう声を漏らした。

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