第1978話 前髪野郎と闇の兄妹1(2)
「・・・・・・ああ。お前に頼むのも癪だが、これは元はと言えば、お前が引き込んだ問題だ。つまり、お前には我の頼みを聞く義務がある」
「俺が引き込んだ問題? なんだよそれ」
レイゼロールの示唆する問題に心当たりがなかった影人は軽く首を傾げた。
「・・・・・・何か痛いって声が聞こえたけど、大丈夫なの?」
そんな時、コンコンコンと影人の部屋のドアがノックされた。ノックをしたのは穂乃影だ。影人の部屋から独り言が聞こえてくるのはよくある事なので、いつもは無視するのだが、今日は悲鳴に近い声が上がったので、穂乃影はそう聞いたのだった。
「やべっ! レイゼロールお前どうにかして隠れろ・・・・・・! 早く・・・・・・!」
「なぜだ」
「なぜだもクソもねえよ・・・・・・! 俺の部屋に女がいたら、不審極まりねえだろ・・・・・・! しかも、穂乃影は、俺の妹は光導姫なんだよ・・・・・・! だから、お前を見たら余計にややこしくなる・・・・・・!」
ヒソヒソ声で影人は必死にレイゼロールにそう言った。レイゼロールは「ちっ、面倒だな」と呟くと、次の瞬間スッと姿を消した。透明化の力を使ったのだろう。
「? 入るよ」
返事がない事を不審に思ったのか、穂乃影がドアを開ける。レイゼロールが消えたのと穂乃影がドアを開いたのは間一髪の差だった。
「ど、どうしたんだ穂乃影?」
穂乃影の姿を見た影人がぎこちない笑みを顔に張り付かせる。穂乃影は1度部屋を見回すと、影人に顔を向けた。
「どうしたって、痛いって大きな声が聞こえてきたから・・・・・・あなたの事だから、転けたり足の指でもぶつけたのかなと思っただけ」
「あ、ああ。実はさっき小指をイスにぶつけちまってよ。でも、痛みも引いてきたからもう大丈夫だ。心配かけて悪かったな」
「・・・・・・別に心配はしてない。勘違いしないで。大丈夫そうならいい」
穂乃影はそう言うと、フイと影人から顔を背けドアを閉め、影人の部屋から出て行った。穂乃影が出て行って数秒して、影人は大きく息を吐いた。
「はあー・・・・・・あ、危なかったぜ・・・・・・」
影人がそう声を漏らした数秒後、透明化していたレイゼロールが力を解除し姿を現した。レイゼロールはチラリとそのアイスブルーの瞳を影人に向けた。
「・・・・・・あれが貴様の妹か。お前とはあまり似ていないな」
「ああ、まあそこにはちょっとした理由があってな。でも、似てる似てないとかは正直どうでもいいだろ。あいつは俺の妹だ。兄妹だ。大事なのはそこだろ。お前にも兄妹がいるんだから分かるはずだぜ」
「・・・・・・そうだな」
レイゼロールが素直に影人の言葉に頷く。そして、レイゼロールは続けてこう言った。
「だが、兄妹といえども問題がないわけではない。お前が引き込んだ問題というのは、まさにそれだ」
「っ、兄妹の問題・・・・・・? レゼルニウスの奴がどうかしたのか」
レイゼロールの兄妹といえば、今は冥界の神となっているレゼルニウスしかいない。




