第1977話 前髪野郎と闇の兄妹1(1)
「・・・・・・影人。お前に頼みがある」
8月上旬のとある日。季節は夏真っ盛り。影人は自分の部屋でゆっくりと夏休みを満喫していた。すると、突然部屋にレイゼロールが現れた。
「なっ・・・・・・」
ベッドに寝転びながらマンガを読んでいた影人は、急に現れたレイゼロールを見て、驚きのあまり固まった。その結果、持っていたマンガが影人の顔に落ちた。
「わぷっ!? お、おい! 急に何だ・・・・・・!? さすがの俺も心臓が止まるかと思ったぞ・・・・・・! というか、お前土足じゃねえか・・・・・・! 汚ねえだろ靴脱げ・・・・・・!」
顔に落ちたマンガを退けた影人は、立ち上がり声を押し殺すと、レイゼロールにそう言った。まさか、レイゼロールが部屋に現れるなどと考えてもいなかったので、影人の心臓は未だにバクバクと早鐘を打っていた。大声を出さなかった事が奇跡だ。自分を心の底から褒めたいと、影人は現実逃避気味に思った。
「ああ・・・・・・そういえば、日本は家の中では靴を脱ぐのだったな。だが、そんな事はどうでもいい」
「良くねえよバカ・・・・・・! ここは俺の部屋だぞ。いいから脱げ・・・・・・! 話はそれからだ・・・・・・!」
「誰がバカだ。殺すぞ」
「殺してもいから早く靴を脱げ・・・・・・!」
「・・・・・・ちっ」
影人の強い抗議にレイゼロールは舌打ちをした。そしてパチンと指を鳴らす。次の瞬間、レイゼロールの靴は虚空に解けるように消えた。神力を使って消したのだ。
「・・・・・・取り敢えず、よしとしてやる」
「お前の許可など求めていない。しかし・・・・・・ふむ。これがお前の部屋か。何とも普通だな」
レイゼロールが影人の部屋を見渡す。当然というべきか、レイゼロールは影人の部屋に来たのは初めてだった。
「普通で悪かったな。玄関を経由しないで俺の部屋に来た奴はお前が初めてだよ。どうせ、俺の気配を辿って転移してきたんだろうが・・・・・・お前、俺がリビングにいたり、風呂に入ってたらどうするつもりだったんだよ」
「知らん。それに貴様の裸など興味はない。そもそも、例えお前が我に裸を見られたところで、お前は何も言えんのだぞ。何せ、お前は過去に我の裸を見ているのだからな」
「はっ、2000年以上も前の話を持ち出すな。というか、あの時お前ガキだったじゃねえか。ガキの裸なんか見た事を免罪符にされても――って痛え!?」
影人が鼻で笑うと、レイゼロールが影人の脛を蹴った。まあまあの力で蹴って来たので、影人は思わず悲鳴を上げた。
「ふん・・・・・・死ね」
「痛てて・・・・・・どストレートな言葉だなおい・・・・・・で、何の用だよ。確か、俺に頼みがあるとかなんとかって言ってた気がするが」
脛をさすりながら影人はイスに腰掛けた。レイゼロールは影人のベッドに腰を下ろした。




