第1976話 夏だ、祭りだ、ハチャメチャだ8(6)
5分後。影人たちは花火大会の会場から少し離れた場所――影人と6バカたちがベースキャンプと言っていた木の暗がり――にいた。6バカが途中で女性陣に場所を確保している事を進言したのだ。その結果、影人たちはこの場所から、たったいま打ち上がり始めた花火を見上げていた。
「うわー! 綺麗!」
「やっぱり夏といえば花火よね」
「これが花火・・・・・・人間はよくこんなものを作り出しますね」
「花火って本当に綺麗ね・・・・・・」
「そうでありますな」
「・・・・・・見事だな。日本の花火はこれほどまでに美しいのか」
「私も久しぶりに見たな。本当、素敵だね♪」
「派手でいいわね! でも、私っていう存在の方がもっと派手だわ!」
「・・・・・・まあまあね」
「まあ・・・・・・! 空に花が咲いていますわ! いったいどのような魔法なのでしょうか!」
「あれに魔力は感じんの。つまり魔法ではない。魔法も使わずに空に花を描くとは・・・・・・ほほっ、やはり異なる世界は面白いの」
「あれは火薬の組み合わせであんな風になるのよ。今まで何百、何千回と見てきたわ。とはいえ、やっぱり綺麗ね」
「美しい・・・・・・ああ、実に美しい・・・・・・」
「風物詩だね。うん。やっぱりいい」
陽華、明夜、イズ、風音、芝居、アイティレ、ソニア、真夏、キベリア、キトナ、白麗、シェルディア、ロゼ、暁理がそれぞれ花火の感想を漏らす。
「みんなでこうして花火を見上げられるなんて・・・・・・素晴らしい思い出が出来たよ。僕はこの日の事を、これから先絶対に忘れない」
「魂の友たちだけじゃなくて、こんな超美人美少女軍団と花火が見れるなんてな・・・・・・やべー、超幸せだ」
「ああ、こんなに嬉しい事はない・・・・・・」
「死んでもいいぜ・・・・・・」
「そうさ。俺たちはこの日のために生まれてきたんだ・・・・・・」
「母さん、父さん・・・・・・やったよ。俺はいま女子たちと花火を見てる・・・・・・」
「これもまた青春だ・・・・・・」
光司、A、B、C、D、E、Fの男性陣も花火を見上げ、それぞれの感想を呟く。6バカどもの感動の仕方は少しおかしい気がしないでもなかったが、まあ年頃の男子高校生という点から見れば、ある意味普通と言えるだろう。
「クソッ、何でこんな事に・・・・・・」
そして、普通でない前髪は花火を見上げながら、そんな事を呟いていた。本来ならば、魂の友たちと熱い感動の涙を流しながら花火を見ていたはずだ。だが、結果はこの大人数である。捻くれ捻くれツイストの前髪は、この現状に不満があった。
(だがまあ・・・・・・)
影人は前髪の下の目を花火から周囲の者たちに向けた。女性陣も男性陣も、皆満ち足りた顔で、或いは楽しそうな顔で花火を見上げている。流石の影人もこの空気を壊そうとは思えなかった。
「・・・・・・はっ、仕方ねえ。俺は大人だからな。今夜くらい周りに合わせてやるぜ」
前髪野郎はフッといつも通りの前髪スマイルを浮かべる。何とも気持ちの悪い呟きだったが、前髪野郎のその呟きは花火の音が掻き消したので、誰の耳も汚す事はなかった。
影人も再び花火を見上げる。こんな大人数で花火を見上げるのは初めてだ。それもこれも、風音たちと出会い、光司と勝負をしたのが――
「・・・・・・あ」
影人は唐突にある事に気がついた。そして、先ほどイヴが言っていた事、イズが何を言おうとしていたのかも理解した。
「てめえ香乃宮! 謀りやがったな!? 勝負って名目だけでやってた事は普通に一緒に祭りを巡ってただけじゃねえか!」
騙されていた事に気づいた影人が、光司に対してキレる。そんな影人に暁理は驚いた。
「え、今頃気づいたの?」
「やはり帰城影人はバカですね」
「帰城影人がアホなのはいつも通りよ」
「ふふっ、あなたって鋭いのか鈍いのか分からない時があるわね」
イズとキベリアは影人に侮蔑の言葉を送り、シェルディアはクスリと笑う。他の者たちもほとんどの者たちは既に気づいており、呆れたような目をする者もいれば、シェルディアのように笑う者もいた。
「誤解だよ帰城くん。僕はあくまで勝負をしていただけで、その過程で君と一緒に祭りを堪能していただけだよ」
「誤解もクソもあるか! だいたいお前は――!」
光司がかぶりを振り影人がそう叫ぶ。空も花火で賑やかだが、地上にもある意味賑やかな空気が流れた。
――夏祭りの夜はこうして過ぎて行った。




