第1972話 夏だ、祭りだ、ハチャメチャだ8(2)
『そ、そうですか。帰城くんは、とにかくこの大会に出たいと思ってくれたんですね!』
本来ならば、前髪のコメントは凄まじく反応に困るものだったが、そこはさすが進行役というべきか、男性はそうフォローした。男性は内心では「ヤバい。とんでもない奴が来た」と思っていたが、そんな様子はおくびにも出さなかった。流石は大人である。
『では、早速歌っていただきましょう。帰城くん、リクエスト曲を教えてください』
男性が影人にそう質問する。影人のその質問に対する答えは既に決まっていた。
(・・・・・・待たせたな、みんな。今こそ俺たちが輝く時だぜ)
影人は内心でそう呟いた。そう。影人はずっと感じていた。光司との勝負の最中から、自分たちに向けられていた目を。友の魂の波動を。
『・・・・・・すみませんが、俺がリクエストする曲はありません。その代わり俺の、いや俺たちのオリジナルの曲を歌わせていただきます』
『え!?』
前髪の想定外に過ぎる答えに、思わず進行役の男性がそう声を漏らす。男性が驚いている間に、影人は右手を天に掲げ、パチンッと指を鳴らした。
瞬間、6つの風が奔った。
「――俺たちを」
「――呼んだかい?」
「――いいや、分かってるぜ」
「――君が今から何をしようとしているのかはな」
「――力を貸すぜ」
「――さあ、ここが俺たちのデビュー舞台だ」
すると、いつの間にか影人の背後、舞台の上に6人の少年たちの姿があった。6人の少年たち――A、B、C、D、E、Fはなぜか全員、格好をつけたポーズを取っていた。
「え・・・・・・? 誰あの人たち・・・・・・?」
「さ、さあ・・・・・・?」
「ど、どこから現れたのだ・・・・・・? 気づけば既に視界内にいたが・・・・・・」
「なっ!? あ、あいつら風洛のバカ共じゃない!? いったい何をする気よ・・・・・・」
「ま、またまたよく分からない事態でありますが・・・・・・うーむ、何か面白い予感がビンビンにするでありますな」
「凄いわね。見たところ、ただの人間のはずなのに私の認知に引っかからなかったわ。どれだけのスピードで動いたのかしら」
「妾も反応できなんだ。あやつら、只者ではないの」
急に舞台の上に出現した6人のバカ共に対し、暁理、明夜、アイティレ、真夏、芝居、シェルディア、白麗がそんな感想を漏らす。その他の者たちも基本的には6バカを知らないので、暁理や明夜やアイティレなどと同じ反応を浮かべていた。唯一、6バカを知っていた真夏は、バカ共が何をやらかすつもりなのかと緊張の混じった顔だった。あと、シェルディアと白麗に認知されずに舞台の上に現れたのは普通に人外レベルである。奴らのバカさと、バカさから来るバカパワーとでも言うべきエネルギーはもはや宇宙であった。
「ああ。お前たちの力を貸してくれ。ブラザー」
影人はいつの間にか自分の背後に移動していたアルファベットズに驚く事なく、振り返りマイクを通さずにそう言った。影人の言葉を受けた6人はコクリと首肯した。
「「「「「「もちろんだブラザー!」」」」」」
「・・・・・・ありがとよ」
影人が感謝の言葉を述べる。突然の乱入者に会場は大きく騒つく。進行役の男性も困り果てた様子で、影人たちに声をかけた。




