第1971話 夏だ、祭りだ、ハチャメチャだ8(1)
『参加される方はいらっしゃらないでしょうか? もしいなければ、今年の「祭りのど自慢大会」はこれで――』
進行役の男性は会場を見渡し、参加者がいないかを確認する。そして、進行役の男性は大会終了の言葉を述べようとした。
だが、その前にスッと右手が上がった。
「すみません。参加します」
手を上げたのは当然というべきか、前髪に顔の上半分を支配された少年、我らが前髪野郎であった。影人が手を上げた事によって、観客の注目が一気に影人へと集まった。
「うおっ、前髪長っ・・・・・・」
「ギャルゲーの主人公みたいな見た目だな・・・・・・」
「うわー・・・・・・」
「いかにも陰キャって感じ・・・・・・」
ざわざわと周囲からそんな声が聞こえてくる。だが、メンタルが鋼鉄の前髪野郎はそんな声を気にせずに、どんどんと舞台の方に向かっていった。
『あ、どうぞ舞台にお上がりください。ご参加ありがとうございます。お名前を伺ってもよろしいでしょうか?』
『・・・・・・帰城影人。高校2年生です』
舞台に上がった影人は先ほどの光司と同じく、軽い自己紹介を男性が差し出してきたマイクに向かって行った。
『帰城くんですね。帰城くんはなぜ飛び入り参加してくれたんですか?』
『そうですね・・・・・・ここで歌う事は、俺にとって逃れられぬ業・・・・・・だからです』
真剣そのものといった様子で、前髪野郎は堂々とそんな理由をマイクに向かって放った。
「え、何・・・・・・?」
「カルマ・・・・・・?」
「なんかよく分かんないけど・・・・・・あの人ヤバい感じがする・・・・・・」
「痛たた・・・・・・」
アホがマイクを通してそんな事を言ったものだから、会場の空気は一転、何とも微妙極まりないものになった。
「あのバカ前髪・・・・・・何してるんだよ。本当、あいつはバカだな・・・・・・」
「よくもまあ、恥ずかしげもなくあんな事をマイクに向かって言えるでありますな・・・・・・」
「・・・・・・帰城影人には羞恥心というものが欠如しているようですね。いえ、そもそも人として欠陥を抱えているといった感じでしょうか」
「あはははは! 帰城くんはやっぱり面白いわね」
「うーん、影くんだなぁ・・・・・・」
「カルマ・・・・・・確かサンスクリット語だったか。なぜ、その言葉が今ここで出るのだ・・・・・・?」
「・・・・・・改めて、人間のギャップって凄いわね・・・・・・」
「確かに間違った表現ではないね。うん。中々にいい表現だ」
「ふふっ、相変わらず面白い子」
「僕との勝負の事をそれまで・・・・・・本当に光栄だよ帰城くん」
「ほほっ、あやつは見ていて退屈せんの」
「な、なんか帰城くんぽいね・・・・・・」
「そ、そうね・・・・・・」
「真性のアホだわ・・・・・・」
「格好いいですよ。影人さん」
「! (頑張れー!)」
一方、影人の言葉を聞いていた暁理、芝居、イズ、真夏、ソニア、アイティレ、風音、ロゼ、シェルディア、光司、白麗、陽華、明夜、キベリア、キトナ、ぬいぐるみはそれぞれの感想を漏らしていた。大半は呆れ果てた反応だったが、数人は少し違う反応を見せた。




