第1970話 夏だ、祭りだ、ハチャメチャだ7(5)
「〜♪」
光司がリクエストした曲がスピーカーから流れる。光司にピッタリな爽やかで明るい曲だ。光司はリズムに乗りながら、歌い始めた。
『〜♪ 〜♪』
光司の歌ははっきり言ってかなり上手かった。音程、歌詞への理解度、声の伸ばし方はもちろんの事、堂々たる振る舞いもあって、さながらプロのようだった。
「「「「「キャー!」」」」」
光司のビジュアルに歌の上手さも相まって、観客、特に女性の反応は凄まじかった。会場はさながら男性アイドルのコンサート会場のようで、会場全体を黄色い声が席巻していた。
『ふぅ・・・・・・ありがとうございました』
「「「「「わぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」」」」」
歌い終わった光司が爽やかな笑みを浮かべる。途端に凄まじい歓声と拍手が巻き起こった。観客の反応は上々だった。
「わあ! 香乃宮くん凄い!」
「うん。光司くん、格好よかったわ」
「いやー・・・・・・凄いね。歌まで上手いんだ。流石だなー。もうこれ、勝負あったんじゃないの」
「さすがは副会長ね! 何でも出来るわ!」
「うん。いい歌声だね♪」
「諦めなさい。もうあんたの負けは確定よ。帰城影人」
「そうね・・・・・・ここから帰城くんが勝つには奇跡を起こすか、裸で踊るしかないわ」
光司の歌を聞いた陽華、風音、暁理、真夏、ソニア、キベリア、明夜がそんな感想を漏らす。感想の半分ほどは影人に諦めを投げかける言葉だった。
「まだやってみねえと分からねえだろうが! というか月下、何で裸で踊るのが俺の勝ちに繋がるんだよ」
「だってこれって観客の反応がいい方が勝ちなんでしょう。だったら、帰城くんが舞台で脱いで騒いだら勝ちじゃない」
「勝ちと引き換えに捕まるじゃねえか! ふざけんなよ月下てめえ!」
影人が思わずそう突っ込む。そんな影人たちとは別に、舞台では進行役の女性が光司からマイクを受け取っていた。
『素晴らしい歌声でしたね! イケメンで歌まで上手いなんて反則です! じゅるり、やはりこの獲物を逃しては・・・・・・あ、ちょ!? 警備員さん!? 何で私を連行して・・・・・・あーれー!?』
遂にアウトと誰か偉い人に判断されたのか、進行役の女性は屈強な警備員に連行されていった。この町にはまともな大人がいないなと、見ていた影人は思った。
『えーと、ここからは私が進行役をさせていただきます』
そして、その女性の代わりに舞台に上がってきた20代半ばくらいの男性がマイクを握った。光司ほどではないが、その男性もイケメンと呼ばれるような容姿だった。
『それでは気を取り直して。高校生の香乃宮くんの歌でした。香乃宮くん、素晴らしい歌をありがとうございました。皆さん、改めて盛大な拍手をお願いいたします』
進行役の男性が観客たちにそう促すと、再び拍手が巻き起こった。このイベントは審査員がいないので、点数をつけられるという事はなかった。
「ふぅ、中々気持ちが良かったよ」
舞台から降り、影人たちの元に戻ってきた光司がニコリと笑う。陽華や明夜、その他の者たちは光司に「お疲れ!」と労いの言葉を掛けた。
『花火の時間が迫ってきておりますので、次の方で最後とさせていただきます。最後に飛び入り参加される方はいらっしゃらないでしょうか?』
進行役の男性のアナウンスがスピーカーを通して会場に響く。そのアナウンスを聞いた光司は影人の方に顔を向けた。
「さて、次は君の番だよ帰城くん」
「・・・・・・ああ、分かってるよ。ここでしっかり見て聞いとけ。お前を負かす男の歌をな」
影人は光司にそう言うと、観客を掻き分け舞台の方へと向かった。
――次回、「セブンス・バック・ヴァレット」。




