第1969話 夏だ、祭りだ、ハチャメチャだ7(4)
「・・・・・・まさか、最後の勝負が歌対決になるとはな・・・・・・」
女性のアナウンスを聞いた影人が、どこか暗い顔でそう呟く。前髪野郎の顔は元々暗いも暗いが、今はより暗くなっていた。
「そうだね。これは予想出来なかったよ」
影人の隣にいた光司も小さく苦笑する。ただ、光司は影人のように滅入っているような様子には見えなかった。
シェルディアが提案し、他の見学者たちが了承した最後の勝負は、この広場で行われているのど自慢大会、いわゆるカラオケ対決だった。影人と光司が歌い、観衆の反応がよりいい方が勝ち、悪い方が負けるといったものだ。正確には、屋台の遊戯による勝負ではないが、勝負の内容を決める者たちが全員賛成した事によって、この勝負方法に決定されたのだった。
「でも、勝負は勝負だからね。帰城くん、先に行くかい?」
「いや・・・・・・まだどの曲を歌うのか悩んでるから後でいい」
「分かった。なら、僕はもう決まってるから、先に行かせてもらうよ」
光司はそう言うと、舞台の方へと歩いて行った。そして、進行役の女性に向かって声を掛けた。
「すみません。参加いいですか?」
『あ、はい! 大歓迎ですよ! どうぞどうぞ! 舞台に上がってください!』
マイクを持っていた女性が光司にそう言葉を返す。光司は舞台に上がった。
『飛び入り参加ありがとうございます! お兄さん、超絶イケメンですね! いや、本当に。後で連絡先を・・・・・・コホンッ! す、すみません。ええと、お兄さんのお名前は?』
光司のイケメンぶりに思わず口を滑らせそうになった女性が、気を取り直したようにそんな質問をする。光司は女性の握っているマイクに向かって、軽い自己紹介をした。
『香乃宮光司です。高校3年生です。よろしくお願いします』
「キャー!」
「イケメンだわ!」
光司が自己紹介をすると、会場から黄色い声が上がった。
『高校生! いいですね若いですね! こんなイケメン高校生が現実に存在したなんて。やっぱり連絡先を・・・・・・コホンコホンッ! な、何でもありません!』
「大丈夫かあの人・・・・・・」
再び欲望に塗れた言葉を述べようとした進行役の女性に、見ていた影人が思わずそう言葉を漏らす。光司のイケメンぶりに目が眩むのは分からなくもないが、見ていて色々と危なっかしい女性だった。
『それで、香乃宮くんは何で飛び入り参加してくれたんですか?』
『そうですね。少し歌いたい気分だったので。すみません、つまらない理由で』
『いえいえ! とても素敵な理由ですよ! やっぱりイケメンは理由までいい・・・・・・と、すみません。では香乃宮くん、リクエストの曲は何にしますか? カラオケと同じセットなので、大体の曲は用意できますよ!』
『では、◯◯の◯◯◯◯◯でお願いします』
光司が進行役の女性にリクエストの曲を告げる。女性が光司にマイクを渡し舞台の袖に移動する。光司はマイクを持ったまま、舞台の中央に1人立った。




