第1965話 夏だ、祭りだ、ハチャメチャだ6(4)
「ん。喫茶店『しえら』出張店。頑張って作った。前から1回お祭りには出店してみたかったから。お金も稼げて、お店の宣伝にもなるから一石二鳥。シスはアルバイト。コーヒーに興味があるみたいだから、コーヒー豆が報酬。でも、偉そうだからお客さんが来ない。使えないアルバイト」
「おいシエラ。誰が使えないだと? 殺すぞ貴様」
「事実を言っただけ。あと、出来もしない事を言わない。見苦しいから」
シエラが冷たい目をシスに向ける。シスは「お前もいつか絶対に殺してやろう」と再び怒りから額に血管を浮き立たせていた。
「あ、しえらさん。こんばんは。しえらさんも屋台を出していらっしゃったんですね。すごく本格的な屋台ですね」
「そう言ってくれると嬉しい。提供してるのは飲み物だけで数もそんなに多くないけど、他の店の食べ物は持ち込みOKだから、よかったら寛いでいって。もちろん、持ち帰りも大丈夫。メニューはここ」
風音の言葉に小さく笑ったシエラがメニューの書かれた紙をテーブルに置く。その紙を見た真夏は「へえ、けっこうあるわね」と興味がある様子になった。
「ちょうど喉も渇いてたし頼もうっと。シエラさん、アイスコーヒーお願い! 持ち帰りで!」
「私も同じものをお願いするよ」
「私はアイスティーを頼むわ。キトナ、キベリア、あなた達も何か頼みなさいな」
「まあいいんですか? でしたら、アイスミルクティーをお願いします」
「さすがはシェルディア様。本物のお金持ちは余裕が違う。私はラムネで」
「ふむ。確かに喉が渇いたな。では、コーラーを注文する」
「私は水筒があるのでいいであります」
「私オレンジジュースで♪」
「僕はジンジャーエールで」
「私は冷たい緑茶でお願いします」
「僕はさっき自動販売機でミネラルウォーターを買ったので、今回はすみませんがご遠慮させていただきます」
「俺も会場に来る前に自動販売機でお茶買ったんで、今は大丈夫です」
結局、真夏、ロゼ、シェルディア、キトナ、キベリア、アイティレ、ソニア、暁理、風音はシエラにそう注文した。注文を頼まなかったのは、水筒を持って来ていると言った芝居、既に自動販売機で飲料を購入した光司と影人の3人だけだった。
「ん、分かった。みんな持ち帰りでいい? シス、注文に取り掛かって」
「量が多いわ! くっ、なぜ俺様がこんな下々の仕事を・・・・・・」
シエラが注文をした者たちから代金を受け取りながら、シスにそう命じる。シスは嫌々といった様子ではあったが、後ろの棚からプラスチックの容器を取り出し始めた。
(真祖2人がやってる出店に、真祖と天狐、光導姫に守護者やら闇人が客・・・・・・凄えな。何かもうそれしか言葉が出てこねえ・・・・・・)
普通に世界征服できる面子だ。間違いなく、今この世界で1番危険な屋台である。
「・・・・・・一般人の俺には刺激的すぎるな」
やれやれといった様子で、自分を一般人だと思っている異常前髪はそう言葉を漏らす。誰がどう見ても、見た目だけならお前が1番異常である。加えて、前髪野郎の内面やら力を知っている者からすれば、余計に異常値ナンバーワンである。
「ふーん。なるほど。勝負を屋台の遊びで決める・・・・・・うん。面白そうだね」
「でしょう? でも、今のところ中々いい遊戯が見当たらないのよ。シエラ。あなた、何か最後に相応しく、かつとても面白くなりそうな遊戯に心当たりはない?」
「うーん・・・・・・遊戯じゃないけど、面白いイベントはあるよ。ちょうど、今向こうの広場でやってる・・・・・・」
注文された飲み物を作りながら、シェルディアと会話していたシエラがシェルディアにある事を教える。
すると、
「わっ、見て見て明夜! 何か凄いオシャレな出店があるよ!」
「本当ね。ん? というか、色々見知った顔があるような気が・・・・・・」
「・・・・・・見間違いではありませんよ明夜。あの屋台にいる者の顔を私は全て知っています」
そんな声と共に屋台に近づいて来る者たちがいた。
「っ・・・・・・!?」
その声を聞いた影人がピタリと固まる。それは先ほど顔を思い浮かべた者たちの声だった。
(クソが・・・・・・最悪だ。今日のツキのなさじゃ、いつか出会うかもしれねえとは思ってたが・・・・・・)
背中に冷や汗が流れる。これが現実でなければどれだけいいか。だが、祭囃子と喧騒、夏の熱気がこれが現実だと影人に思い知らせる。
影人がギギっと壊れたロボットのように振り返る。すると、そこには3人の少女の姿が見えた。性格には1人は少女ではないのだが、見た目だけなら少女そのものだ。
「・・・・・・遂に来やがったか。朝宮、月下、イズ・・・・・・」
そして、影人はその3人の名を呼んだ。
――祭りの喧騒はより騒がしさを増す。




