第1961話 夏だ、祭りだ、ハチャメチャだ5(4)
「あ、見て影人。かき氷があるわ。私、あれけっこう好きなのよね」
「そ、そうなんだ。じゃあ、買って来たらどうだ? うん、きっとそうした方がいい。買いに行くのに俺は邪魔になるだろうから離れるよ」
「別に邪魔じゃないわ。別にこのままの状態でもかき氷は買えるもの。着いて来て影人」
理由をつけてシェルディアから離れようとした影人だったが、シェルディアが許さなかった。シェルディアはより強く影人の腕を抱くとかき氷の屋台へと向かった。影人は「は、はい・・・・・・」と諦め切った顔を浮かべた。
「うん。やっぱりヒンヤリとしていて美味しいわ。人間って面白いわよね。氷もデザートにしてしまうのだから」
屋台でいちご味のかき氷を買ったシェルディアは満足そうな顔になった。ちなみに光司とキベリア以外の者たち、真夏、アイティレ、ロゼ、風音、キトナもかき氷を買って食べていた。特にかき氷を初めて食べたアイティレ、ロゼ、キトナは、「む。これは・・・・・・美味しいな」「夏の祭りの熱気に冷えたデザートはピッタリだ。しかも、見た目も美しいし、味もいい。完璧だね」「凄いです! 氷が甘いなんて! 美味しいです!」と感想を述べていた。
「影人。あなたにも一口あげるわ。はい、あーん」
「っ!? い、いやいいって! 気持ちは嬉しいけど、本当大丈夫だから!」
シェルディアにストローの匙を向けられた影人はぶんぶんと首を横に振った。それは、それだけはダメだ。あまりにもハードルが高すぎる。ただでさえ恥ずかしいのに、そんな事までしてしまえば、それはもうカップルではないか。
「嬉しいなら食べなさい。真祖からの下賜よ。食べてくれなきゃ『世界』で死ぬまでイジメるわよ」
「その脅しはエグすぎないか!?」
「大丈夫よ。あなたは打たれ強い子だから。ほら、溶けちゃうわ。早く口を開けて」
「いや、打たれ強い云々は関係な・・・・・・ちょ、嬢ちゃん!? 無理やり左手で顎を掴んで俺の口を開けようとしないで!? 顎が壊れるから! 分かった! 食べる! 食べるから!」
ニコニコ顔で自分の顎を掴んでくるシェルディアに対して影人は悲鳴を上げた。そして、遂に影人は音を上げた。
「最初からそう言えばいいのに。まあいいわ。じゃあ、はい。改めて、あーん」
「あ、あーん・・・・・・」
観念し切った影人が小さく口を開く。そして、シェルディアの手が影人の口元に近づき、かき氷が影人の口の中に――
「「だ、だめぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!!」」
だが、どこからかそんな声と共に影が走った。その影――正確には2人の女性――は影人とシェルディアの間に割って入ってきた。
「っ!?」
「あら?」
突然の乱入者に影人とシェルディアが驚いた顔になる。後方にいた光司たちも不思議そうな顔を浮かべていた。
「そ、それはダメ、というかシェルディアちゃんが汚れちゃう! こんな奴にあ、あーんだなんて! シェルディアちゃんはもっと自分を大切にした方がいいよ!」
「そ、そうだよ! 影くんなんて、見た目は冴えないし、言葉も悪いし、デリカシーはないし、察しも悪いし、とにかく悪い事尽くしだよ! あーんなんてする価値ないよ!」
影人とシェルディアの間に割って入って来た少女たちが、どこか必死な様子で前髪野郎の悪口を述べる。前者の少女は少し短めの髪に淡い緑色の浴衣を纏った美少女で、後者の少女は先ほどマンションのエントランスで会い、途中まで一緒に祭り会場に来た少女だ。その2人を見た影人は「っ・・・・・・」と思わず面倒くさそうな顔になる。
「はあ・・・・今度はお前らかよ。暁理、金髪・・・・・・」
そして、影人は乱入してきた2人の少女、早川暁理とソニア・テレフレアに対して大きなため息を吐いた。
――祭りはまだまだ終わらない。




