第1958話 夏だ、祭りだ、ハチャメチャだ5(1)
「これで僕の勝利は1、帰城くんの勝利も1。僕たちの勝負の行方は、最後の対決に持ち越される事になった」
「改めての説明ありがとうな。で、最後の勝負の方法は皆さんに決めてもらうんだったな」
輪投げの屋台から離れた影人たちは適当に屋台が出ている通りを歩いた。光司の言葉に影人は皮肉げな言葉を返すと、顔を後方へと向けた。
「あっ、冷やしきゅうりがあるわ! 私あれ好きなのよね! ちょっと買ってくる!」
「日本の祭りに参加したのは初めてだが、いいね。この独特な音楽、確か祭囃子だったかな。この音楽が静かに、且つ心地よく気分を高揚させる。それに様々な種類の屋台が食欲と好奇心を刺激する。そして、この風流な光景・・・・・・ああ、美しい。創作意欲が湧いてくるよ」
「アイティレ、その水色のブレスレット可愛いわね。ふふっ、帰城くんに感謝ね」
「あ、ああ。そうだな。確かに、可愛い。私には似合わないほどにな。ううむ、しかしなぜ帰城影人は私にこれを・・・・・・」
「まあ、帰城殿は景品にはあまり興味がなかった様子でありますからな。その中で上等そうだったブレスレットをフィルガラルガ様にプレゼントされた・・・・・・はっ、私に電流奔るであります。もしや、帰城殿はフィルガラルガ様の事が・・・・・・いやしかし、それでは容姿の偏差値があまりにも・・・・・・正に月とすっぽん。美女と野獣・・・・・・現実的には正直有り得ない組み合わせでありますな」
影人たちの後ろには真夏、ロゼ、風音、アイティレ、芝居の姿があった。真夏とロゼは影人と光司の勝負が見たいと着いてきた。あと、芝居は絶対に後で嫌がらせをしてやると影人は誓った。芝居とは今日あったばかりだが、あまりにも失礼過ぎる。的外れな思い込みにも腹が立った。
ちなみに、輪投げの景品を影人は、適当にまだ面識というか因縁があったアイティレに投げたが、光司の分の景品は、光司がお菓子の詰め合わせを風音と芝居にプレゼントしていた。
「いつの間にか男女比率が・・・・・・さっさと勝負に勝ってこのパーティーから抜け出してやる・・・・・・あー、皆さん。最後の勝負の方法は・・・・・・」
影人は改めて決意を固くすると、自分と光司の勝負の内容を決める女性たちに対し声を掛けようとした。
「――あら、影人」
だが、影人が女性たちに勝負の方法が決まったのかを聞く前に、どこからか影人の名前が呼ばれた。
「っ・・・・・・」
その声を影人はよく知っていた。何せ、大体1日に1回は聞く声だからだ。影人が声の聞こえた方向に振り返る。すると、そこには影人が思い浮かべた通りの人物がいた。
「じょ、嬢ちゃん・・・・・・」
影人の視線の先にいたのは美しい人形のような少女だった。美しいブロンドの髪はいつもは緩いツインテールに結ばれているが、今日は結い上げられ、黒色の高級そうな簪が金の髪に映えている。衣装もいつもは豪奢なゴシック服だが、今日は黒を基調としながらも所々に金の刺繍が入った浴衣を纏っており、いつもとは雰囲気が違った。総じて、その少女――正確には少女の姿をしたモノだが――シェルディアはいつもよりもグッと色気が上がっているように思えた。
「あ、影人さん。こんばんは。こちらの世界のお祭りもとても楽しいですね!」
「げっ、帰城影人・・・・・・はぁー、また面倒な奴が・・・・・・」
「!」
シェルディアの隣にはキトナとキベリア、キベリアに抱えられていたぬいぐるみの姿もあった。キトナもシェルディア同様に浴衣(色は萌葱色)を着ていたが、いつも外出する時に被っている帽子を被っていなかった。そのため、キトナの頭に生えている耳は衆目に晒されていた。キベリアも浴衣(色は薄い紫色)を着ており、影人を見て露骨に顔を顰める。ぬいぐるみは周囲の者たちにバレないように、小さく手を影人に振ってくれた。




