第1956話 夏だ、祭りだ、ハチャメチャだ4(4)
「――ん? これは珍しい。こんな所で会うとはね。やあ帰城くん。それに、香乃宮くんに風音くん、アイティレくんも。こんばんは」
屋台で輪投げをしていた女性は影人たちに気がつくと、そう言葉を掛けてきた。水色に一部白いメッシュを入れた長髪は普段はストレートだが、今日は一本に纏められている。薄い青の瞳は変わらず美しい。明らかに外国人と分かる見た目だが、その女性は流暢な日本語を話した。藍色の浴衣を纏ったその女性の名は、ロゼ・ピュルセといった。
「あら帰城くんに副会長じゃない! それにあんたらも! でも1人見覚えがないわね。まあ、いいか!」
もう1人、ロゼの隣にいた女性が影人たちに気付き明るい笑みを向けてくる。少し長めの髪には特徴的な紙の髪飾りが飾られている。影人と同じく黒の浴衣に身を包んだその女性は、榊原真夏といった。
「っ、ピュルセさん、会長・・・・・・」
「こんばんは。ピュルセさん、榊原先輩。お2人も来ていらっしゃったんですね。あと、僕はもう副会長じゃありませんよ」
「ああそうだったわね。でも、副会長は私にとって副会長だから何の問題もないわ!」
光司の指摘を受けた真夏は、しかし全く気にしていない様子だった。さすが榊原真夏といったところだろうか。
「しっかし、珍しい組み合わせね。副会長と『巫女』と『提督』と、そっちの子も光導姫? でしょ。あんたらはまあ分かるけど、そこに帰城くんがいるのが意外だわ」
「確かにそうだね。帰城くんは祭りに来るとしても1人だと思っていたよ」
「あー、それはですね。聞いてくださいよ。実はかくかくしかじかで・・・・・・」
影人は真夏とロゼに事情を説明した。
「なるほど。屋台で勝負! いいじゃない! 相変わらず面白い事してるわね!」
「ふむ。いいね。確かにそれも祭りの楽しみ方の1つだ」
影人の説明を聞いた真夏とロゼはその顔に興味の色を混じらせた。別の表現をするならば、食いついたという表現が1番合っているような気がした。
「でも帰城くんとお祭りを一緒に回りたいから勝負って・・・・・・ぷっ、あははははは! 副会長も随分素直になったものね! いいじゃない! 人間素直が1番よ!」
「い、痛いですよ先輩」
バンバンと光司の背中を叩く真夏に光司が苦笑いを浮かべた。
「ふーむ、『芸術家』と『呪術師』とも知り合いとは・・・・・・帰城殿は守護者。それも高位の、でありますか?」
「う、うーん・・・・・・それは・・・・・・」
「・・・・・・どうだろうな。私たちも知り合いではあるが、その辺りの事は知らない」
芝居の呟きに対して風音とアイティレは答えをはぐらかした。影人がスプリガンであるという事実は公にはされていない。知っているのは一部の光導姫や守護者、その他の一部の者たちくらいだ。影人の正体を芝居に伝えてもいいものか、風音とアイティレには判断しかねた。芝居は「そうなのでありますか」と素直に2人の反応を受け入れた。




