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変身ヒロインを影から助ける者  作者: 大雅 酔月
1952/2051

第1952話 夏だ、祭りだ、ハチャメチャだ3(4)

「お前ら・・・・・・くっ」

 やはりAとDは影人を裏切っていなかった。2人なりの思い遣りがあったのだ。その思い遣りに感動した影人は、思わずホロリと涙を流した。

「・・・・・・今度は急に泣き始めたでありますよ」

「き、帰城くんって思っていたよりも感情豊かな人なのね・・・・・・」

「・・・・・・人の二面性とは恐ろしいな」

 急に男泣きをした不審者に対して、芝居、風音、アイティレは更にドン引きした様子になる。浴衣の袖で涙を拭った不審者は立ち上がると、フランクフルトを齧った。肉の食感と塩気、ケチャップの味が口の中に広がった。やはりフランクフルトは美味い。なぜこの場面で齧ったのかは、まあ前髪野郎なので考えるだけ無駄だろう。

「・・・・・・ありがとよA、D。お前らの想いは確かに受け取ったぜ」

 前髪はグッと右手を握った。そして、ガツガツと残りのフランクフルトを口の中に入れていく。いったいどういう情緒をしているのだろうか。答えは闇の中である。

「・・・・・・だが、悪いな。俺に色恋の話は似合わない。今日の俺は、友とともに笑い合うために空に咲く花に寄せられた羽虫なんだからな」

 フランクフルトを食べ終えた羽虫は、フランクフルトが刺さっていた串をまるでタバコのように扱いながら、夜空を見上げた。その仕草、全てが無駄で小っ恥ずかしい。

「そういうことだ。俺は行くぜ。今度こそさよならだガールズ。いい夜をな」

 どういうことなのか、キリッと無駄にキメた顔で影人は3人に対して別れの挨拶を告げた。風音、アイティレ、芝居は「う、うん。ありがとう・・・・・・」「あ、ああ・・・・・・」「さよならでありますー・・・・・・」と微妙な反応を返した。

「――やあ、やっと見つけ・・・・・・コホンコホン。奇遇だね、帰城くん」

 しかし、影人がその場から去ろうすると、新たに自分の名を呼ぶ声が聞こえた。その声。それは影人が最も恐れている声だった。影人はハッとした顔になり正面を向いた。

「・・・・・・奇遇か。本当に奇遇なんだろうな。なあ・・・・・・香乃宮」

 影人はまるで戦いに臨むかのような真剣な様子で、いつの間にか自身の正面に現れていた男の名を呼んだ。一目で高級と分かる白の浴衣は、爽やかな超がつくイケメン顔にとても似合っていた。同性か見ても格好いいと断言できるその男、香乃宮光司はフッとイケメンスマイルを浮かべた。

「もちろんさ。決して、僕も君を祭りに誘おうと思っていたけど、早川さんが断られた光景を見て、作戦を変更して、当日偶然お祭り会場で会って一緒にお祭りを回れたらなんて考えていないよ」

「今日はえらく説明的だなお前・・・・・・そうか。つまり、お前は真っ黒ってわけだ」

「君が僕の何を以て黒と言っているのかは、残念ながら鈍い僕には分からないな」

 臨戦態勢で光司を睨む影人に対し光司はどこまでも自然体だ。

「でも意外だね。君が彼女たちとお祭りを回っているなんて。よければ、僕もご一緒してもいいかな?」

 光司が影人の後方にいた風音たちに目を向ける。光司を見た風音たちは「あ、光司くん。こんばんは。浴衣似合ってるね」「『騎士』か」「お久しぶりであります。いやー、相変わらずのイケメンっぷりでありますなー」とそれぞれの反応を示した。

「こんばんは。連華寺さん、フィルガラルガさん、新品さん。皆さんとても素敵な衣装ですね」

 光司もニコリと3人に対し笑顔を向ける。さすがは完璧イケメンこと香乃宮光司である。女子に対するケアも完璧だ。モテるのも納得である。

「はっ、残念だったな。俺はこいつらとは祭りを回っていない。こいつらと回りたきゃ好きにしろ。俺はおさらばさせてもらうぜ」

「そうだったのか。それは勘違いしていたよ。でも、ここで会ったのも何かの縁だよ。帰城くん、どうかな。やっぱり僕と一緒にお祭りを回らないかい?」

「しつこいぞお前。そもそも、俺はツレと来てるんだ。俺ははぐれたあいつらと合流しなきゃならない。諦めろよ」

 影人はそう言い残して光司の隣を横切ろうとした。だが、光司は変わらず爽やかな笑みを浮かべた。

「おや、君ともあろう者が逃げるのかな帰城くん」

「・・・・・・あ?」

 影人は立ち止まり至近距離から光司を睨みつけた。光司は影人の方に顔を向けるとこう言葉を続けた。

「今日は年に1度の夏祭り。せっかくだから、1つ勝負をしないかい? 今から遊戯の屋台をいくつか回ってどちらが勝つか決めるんだ。僕が勝てば、君は僕と一緒に祭りを回る。君が勝てば、僕は干渉しない。どうかな?」

「・・・・・・お前バカか。そんな勝負を俺が受けると思ってるのか。メリットも何もない」

「じゃあ逃げるという事でいいかな。残念だな。君はもっと張り合いのある人だと思っていたんだけど」

「・・・・・・今日はやけに口が回るじゃねえか香乃宮。祭りの熱気に浮かされて興奮してるのか。喧嘩を売る相手くらい選べ」

「浅ましい事は十分に理解しているよ。でも、それすらも超えて、僕にも譲れないものが、欲しいものがあるんだ。君という友達と一緒に祭りを楽しみたい。ああ、僕はいつからこんなに強欲になったんだろう。きっと、君のせいだよ帰城くん」

 影人と光司の瞳が交錯する。互いの想いが視線を通じてぶつかり合う。見えない火花が確かに散る。ゴゴゴゴと空気が震える。

「はっ・・・・・・いいぜ。その安い挑発に乗ってやる。ボコボコにしてやるよ」

「ありがとう。でも、勝つのは僕だよ」

 影人が勝負を了承する。光司も感謝の言葉を述べながらも、不敵な笑みを浮かべた。


 ――こうして、突如として影人と光司は勝負をする事になったのだった。

「・・・・・・どういう展開でありますか。これ」

 その光景を見ていた芝居は大きく首を傾げた。

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