第1950話 夏だ、祭りだ、ハチャメチャだ3(2)
そして、7人のアホどもは屋台のコーナーへと移動した。そこそこの規模の祭りなので、屋台の数もそれなりだ。
「相変わらずの盛況ぶりだな」
「まあ、地元の人間は大体くるからな。それより、まずはどこから回る?」
「俺は腹減ったから何か食い物食いたいな」
「俺は来る前に軽く飯食って来たから先に何か遊びたいぜ」
「俺は異性とお近づきになりたいから迷惑にならない範囲で声掛けがしたい!」
「じゃあ、それぞれグループに分かれるか? どうせ最終的にはさっきのベースキャンプに集合する事になるし」
A、C、D、E、Fの言葉を聞いた影人がそんな提案をする。影人の提案を聞いたBは「それもいいな」と同意の意思を示した。
「例え別々に祭りを回っても俺たちの心は一つ。何せ俺たちは魂で繋がっているからな。よし、じゃあ食べ物グループと遊びグループとドキドキ声掛けグループに分かれよう」
Bがそう言うと、すぐにグループが決まった。食べ物グループはAとD、遊びグループはEとC、ドキドキ声掛けグループはFとBだ。そして、Gこと前髪野郎は腹が減っていたので食べ物グループを選択した。
「よし、各々分かれたな。じゃあ、また後で会おう。ああ後、途中で他のグループと会って合流したりするのはもちろんありだ。各自、花火が上がるまでにベースキャンプに集合してくれ。ではな!」
「ああ!」
「お前らも頑張れよ!」
「通報されない範囲でな!」
ビシッと右の人差し指と中指を立てて額に近づける格好をつけた仕草をしたBに、C、E、Fがそう言葉を返す。そして、バカどもは各々のグループで祭りを回り始めた。
「おっ、焼きそばだ! 買おうっと。DとGはどうする?」
影人はAとDと共に食べ物を求めて屋台を巡り始めた。すると、Aが焼きそばの屋台を見つけ立ち止まった。
「そうだな。俺も買うぜ」
「俺はまず向こうにあるフランクフルトを食べるよ。だから、焼きそばはいい」
DとGこと前髪がそれぞれ答えを返す。2人の答えを聞いたAは「じゃ、焼きそば2つだな」と頷いた。
「じゃあ、俺はフランクフルト買ってくるよ」
前髪野郎はそう言うと、焼きそばの屋台の斜めにあったフランクフルトの屋台に移動した。
「すみません。フランクフルト1本お願いします」
「はいよ! 300円ね!」
フランクフルトを焼いていた中年の男性店主が明るい笑顔を浮かべる。影人はウエストポーチからサイフを取り出すと500円玉を男性に渡した。店主の男性は、釣り銭と発泡スチロールの皿に乗せたフランクフルトを影人に渡した。
「ケチャップとマスタードはそこの使って適当にかけてくれ。まいど!」
「はい。ありがとうございます」
影人は釣り銭の200円をサイフに仕舞うと、皿を受け取りケチャップを手に取った。
「やっぱ祭りといえばフランクフルトだよな」
ベチャベチャにケチャップのかかったフランクフルトを見た影人が思わず口元を緩める。去年の小学校の夏祭りの時も同じような事を言ったが、影人にとって祭りの屋台の食べ物といえばフランクフルトなのだ。単純に好物という理由もあるが、日常生活ではあまり目にする事のない、長く太いソーセージが影人の心をワクワクとさせるのだ。
「いただきま――」
「――帰城影人くん?」
影人がフランクフルトを頬張ろうとした時だった。突然、どこかからそんな声が聞こえてきた。
「ん・・・・・・?」
影人はフランクフルトを口に入れる直前で、声の聞こえた方に顔を向けた。
「あ、やっぱり。こんばんは」
影人に声を掛けて来たのは、赤色の家紋のような紋様の刺繍の入った白い浴衣を来た女性だった。髪を一本に括り、全体的に清涼な雰囲気を纏っている。その女性――連華寺風音は影人に向かって小さく手を振った。
「・・・・・・君も来ていたか」
風音の横には2人の少女の姿もあった。1人は銀髪に赤い瞳が特徴の少女だ。銀髪を先ほど出会ったソニアのように結い上げ、群青の浴衣を纏っている。彼女の名はアイティレ・フィルガラルガと言った。
「む、会長の知り合いでありますか?」
もう1人は少し短めの髪に無表情が特徴の少女だ。藍色に狐の刺繍の入った浴衣を纏っている。彼女の名は新品芝居と言った。




