第195話 対面(3)
「そうか・・・・・・それじゃあ1つ質問だ。何で、お前は意志を持った? お前が自我を持ち始めたのは、たぶんレイゼロール戦の時だろう。もしお前が自我をそれ以前から持っていたなら、もっと早くから俺に干渉してきたはずだ。・・・・・・さっきも言ったが、俺にはお前の正体が分かってる。だが、なぜお前が自我を意志を持ったのか。これだけは分からなかった。お前が自我を持ち始めたのには、何かきっかけがあるはずだ」
ゆっくりと説明するように、影人は自分の考えを悪意に告げた。そう。この事だけは影人にも分からなかった。悪意が意志を持ったのは、初めて自分の身に危険が迫ったから、という理由ではない気がするのだ。
「くくっ。その質問ができるって事は、俺の正体が分かってるってのはブラフじゃねえな。てめえには本当に俺の正体がわかってるらしい」
奈落色の瞳を自分に向けながら、悪意はニヤニヤとした笑みをその顔に張り付けた。影人がそのまま悪意の言葉を待っていると、悪意は話を続けた。
「俺という意志が、自我が発生した理由? おいおい、酷いじゃねえか。俺が生まれたのはお前が原因だっていうのになぁ?」
「俺が・・・・・・・・?」
悪意がさも可笑しいといった感じで、嗤った。影人はそのような答えは完全に予想していなかったので、呆けたようにそう聞き返した。そして悪意はなぜか徐々に距離を詰めてきた。
「願っただろ? 求めただろ? レイゼロールと戦った時、お前は力を求めた。守る力じゃねえ、敵を壊す力をよ・・・・・・・!」
「っ・・・・・・・!?」
気がつけば、少女は超至近距離から影人の顔を覗き込んでいた。まるで深淵に覗かれているような薄ら寒さを影人は感じた。
「俺はそんなお前の昏い思いから生まれたのさ。そうさ、お前が俺を生み出した! はははっ、ははははははははははははははははははははははっ!!」
笑う、嗤う。少女の姿をしたモノは哄笑を抑えきれずに声を上げた。そして未だに呆けている影人に悪意は説明を続けた。
「言っとくが、俺はイレギュラーだ。帰城影人、お前の本質、お前がソレイユから与えられた力、お前が抱いた昏い思い、そんな要因が合わさってイレギュラーは生まれちまった。見ろよ、この精神世界の空を」
そう言って悪意は三日月が浮かぶ夜空を見上げた。悪意に釣られるように影人もほとんど無意識的に内なる世界の空を見上げる。
「何でこの精神世界が夜なのか知ってるか? それはお前の本質が闇だからだ。俺もお前以外の精神世界に行った事はねえから断言は出来ねえが、普通の人間の精神世界は陽が出てると思うぜ? まあ、それが朝なのか昼なのか夕方かは分からねえけどな」
「・・・・・・・・・・それが何だって言うんだ?」
ようやく驚きから立ち直ったように、影人はそう呟いた。悪意の言った事実には確かに驚かされた。だが、悪意の言った影人の本質が闇という事に関しては、悪意がいったい何を言いたいのか分からなかった。
影人がスプリガンとして振るう力は、確かにレイゼロールサイドと同じ闇の力だ。その力の性質ゆえにスプリガンは光導姫・守護者から敵と見なされることも多々ある。今でも闇の力を扱う自分は、闇人などではという噂もあるとソレイユがいつだか話してくれた。
結局のところ、影人が言いたいのは「その本質が闇というのがどういった意味を持つのか」という事であった。




