第1946話 夏だ、祭りだ、ハチャメチャだ2(2)
「ふぅ、今から楽しい夏祭りなのに小言なんか聞きたくないんだよ」
鍵を閉めてそう愚痴った影人は鍵を黒のウエストポーチに仕舞った。サイフやスマホ、ペンデュラムも纏めてウエストポーチの中に入れてある。祖父から譲り受けた浴衣にはポケットがなかったので、必要なものはここに収納してある形だ。
影人が階段を下りマンションのエントランスに着く。すると、見知った顔がちょうど入り口から入って来た。
「あ、影くん! やっほー♪」
「っ、金髪・・・・・・?」
影人に向かって手を振ってきたのはソニアだった。ソニアは変装用の伊達メガネをかけ、髪を結い、簪で髪を留めていた。薄い橙色に美しい白い花の刺繍の入った浴衣を身に纏い、手には花柄の巾着袋。足下は可愛らしい朱色の草履が見えた。
「何だ? その格好・・・・・・お前も夏祭りに行くのか? でも、なんでここに来たんだ?」
「え、私君に夏祭り一緒に行こうってメール送ったよね? 返信がなかったから、てっきりOKだと思ってたんだけど・・・・・・」
軽く首を傾げた影人に対して、ソニアは逆に不思議そうな顔を浮かべた。影人は「メール?」と訝しげに呟くとウエストポーチからスマホを取り出し、メールの欄をチェックした。
「・・・・・・あー、確かに来てたな。悪い。見落としてた」
「え!? ちょっとそれ酷くない!? 私、すっごく楽しみにしてたんだよ!? スケジュールだって今日に合わせて調整してきたのに!」
ソニアはプンプンと怒った様子になった。だが、ソニアは影人の姿から影人も夏祭りに行くのだと予想し、大きくため息を吐いて怒りを抑えた。
「はぁー・・・・・・本当、影くんは仕方ないんだから。いいよ。許してあげる。その代わり、お祭りはちゃんと私と回ってよね。影くんもお祭りには行く予定だったんでしょ。なら問題ないよね?」
「いや、それがもう先客・・・・・・約束してる奴らがいるんだよ。だから悪いな金髪。お前と一緒に祭りは回れん」
「っ、そんな!? 誰と!? 誰と行くの!? シェルディアちゃん!? 暁理ちゃん!? それともレイゼロールかソレイユ様とか!?」
影人から拒絶の言葉を聞かされたソニアは明確にショックを受けた。そして、凄まじい形相で影人に詰め寄った。
「うおっ!? きゅ、急に詰めてくるなよ金髪・・・・・・というか、何でそこで嬢ちゃんとかあいつらの名前が出てくるんだ? 違う違う。男友達とだよ。確かに、嬢ちゃんと暁理には祭りに一緒に行かないかって誘われたが、今言ったみたいに先約があったからな。断った」
「男友達・・・・・・それって、守護者の10位くんの事?」
「香乃宮じゃねえよ。ゾッとすることを言うな。あと、あいつは友達じゃない」
「・・・・・・それは流石に可哀想じゃない? でも、じゃあ誰と行くの? 影くん他に友達なんていないでしょ」
「お前・・・・・・俺にも友達くらいいるわ! 舐めんな! つーか、母さんといいお前といい、俺の認識のされ方はどうなってんだよ・・・・・・」
本当に不思議そうな顔で首を傾げるソニアに、影人は思わずそう叫ぶ。確かに影人は孤独で孤高を標榜している。だが、それは友達が1人もいないという意味ではないのだ。




