第194話 対面(2)
「はっ、初対面でなんつう眼向けてきやがる」
自分を睨む少女の眼は、光届かぬ奈落色であった。影人も日本人なので瞳の色は黒いが、少女の瞳はきっとそれよりももっと黒い。いや、昏いといった方が正しいか。
「・・・・・・・・・・・何しに来やがった」
ベンチ周囲の街灯の光に照らされた少女が、忌々しそうにそう言った。その声はフェリートの戦いの時に影人が聞いた「お前に死なれちゃ困る」という女の声と同一であった。
(ビンゴだ。やっぱり居やがったか)
そして影人はニヤリと笑みを浮かべた。今、自分の前に現れたこの少女が(まさか少女の姿をしていたとは影人は考えてもいなかったが)影人に干渉してきたモノ、それ自身だ。
「まさか、そんな見た目だったとはな。随分と可愛いらしい見てくれじゃねえか。ええ? 悪意さんよ」
「あ? チンピラみてえな言葉しやがって。見た目と言葉が矛盾してんだよ、前髪野郎。後、この姿はわざわざ作ってやったんだ。俺の意志と力が強まって人型に姿変えれるくらいは出来るようになったからな」
くくっ、とその少女は、いや影人に干渉を続けてきた悪意は嘲笑うようにそう言葉を放った。
「そうかい、そいつはよかったな。んで、よければちょっと話そうぜ。俺はそのためにここに来たんだからよ」
ポンポンと影人は自分が座っているベンチの横を叩く。影人の言葉に悪意は「こいつは何を言ってるんだ?」的な顔を向けてくるが、影人の言葉に嘘はない。影人は真実、悪意と話し合いをするためにここにやって来たのだ。最初に言ったではないか。「腹を割って話そう」と。
「は? 正気かてめえ。ちくしょう、何がどうなりゃそんな流れになるんだ・・・・・・・・・俺が意識の深淵に戻された間に何があった? ああ、くそ! 意識を失くしてた自分が嫌になるぜ・・・・・・!」
ガリガリと頭を掻きながら、悪意は独り言を呟いていた。それが悪意の癖なのかは全くもって分からない。だが、独り言を呟いている悪意の姿は、影人にどこか親近感を抱かせた。たぶん、自分もよく独り言を呟くからだろう。
「ああ、そうだ。言っとくが、俺はお前の正体が分かってる。その上で話し合いたい」
「・・・・・・・はっ。それがブラフかどうかは知らねえが、いいぜ。乗ってやる。俺もお前には興味があったからな」
少女の姿を象った悪意は、影人の方へと近づいてくると影人の横へと腰を下ろした。このベンチは長さ的には4人ほど座れそうな感じだが、悪意は1番端に座ったので、影人との距離は2人分ほど離れている。つまりお互い端と端に座っている感じだ。この距離が現在の2人の距離を端的に表していた。
「まずは礼を言っとく。ありがとう。お前がいなきゃレイゼロールは撤退しなかったろうし、俺も今頃は死んでただろう。さっきのキベリア戦に関しては、まあ手放しに感謝は言えねえが、キベリアは撃退出来たみたいだしサンキューだ。まあ、愚痴もけっこうあるからそれは後で言うが」
「・・・・・・・・けっ、言ったはずだぜ。お前に死なれちゃ俺も困るんだよ。だからお前を助けたわけじゃねえ、そこは勘違いするな」
影人の言葉を受けて、悪意はまるで苦虫を噛み潰したような表情でそう吐き捨てた。そこに照れ隠しのような感情は一切なく、ただただ悪意は不快そうであった。




