第1936話 とある家族の再会2(2)
「それで、父さんは世界を旅し続けた。一箇所には留まれないから。でも、父さんもただ世界を旅していただけじゃなかったんだ。父さんはその間、自分にかかった呪いを解く方法を探していた。それでついこの前にその方法が見つかって、やっと呪いを解く事ができた。だから、父さんは日本に帰って来たんだけど・・・・・・昔住んでた家に俺たちがいなかったから、ご近所さんに聞いてこの辺りにいたみたいなんだ。それでたまたま俺と出会ったんだよ」
影人は日奈美と穂乃影に影仁が消えていた事情、そして影仁と出会った経緯を話し終えた。
(さて、ほとんど真実だが・・・・・・これで父さんが失踪していた理由は話した。基本的に嘘じゃないから、俺と父さんも母さんや穂乃影に何か聞かれても整合性のとれない事を言う確率はほとんどない。普通ならほとんど真実でも信じられない話だが・・・・・・母さんと穂乃影には俺が「宇宙人に攫われていた」という経験がある。つまり、普通じゃない話に対する耐性は出来ているんだ。なら、最終的には信じる・・・・・・いや、信じるしかないはずだ)
加えて、いま日奈美と穂乃影は混乱している。混乱している時は理性が満足に働かない。そういう状態の時、人間はどのような言葉でも受け入れやすくなる。影人はそれすらも利用して、真実に少しの嘘を混ぜた話を日奈美と穂乃影に話したのだった。正直、詐欺師みたいなやり口だが、まあ前髪野郎は様々な点を加味して完全に悪人なので、問題は逆にないだろう。
「実は・・・・・・そうなんだよ。本当、信じられない話だろうけど・・・・・・俺はこういった場面では嘘をつける人間じゃない。だから、信じられなくても信じてほしい」
影仁も表現は悪いが追い討ちをかけるかのように影人の説明を肯定した。影仁本人の肯定と、とても嘘をついているようには思えない影仁の真摯な態度、更に一応は理解できなくもない説明を聞いた日奈美と穂乃影は顔を見合わせた。
「・・・・・・影仁。あんたが嘘をついていないのは分かったわ。目を見れば分かるから」
「・・・・・・うん。私も父さんは嘘をついてないと思う。なんとなく・・・・・・だけど」
日奈美と穂乃影は影仁の方に顔を向け直し、取り敢えずはそう言ってくれた。その言葉を聞いた影仁はホッと息を吐いた。
「・・・・・・ありがとう。こんな突拍子もない話を信じてくれて。いやー、やっぱり家族だなぁ・・・・・・」
影仁が嬉しそうな顔になる。その顔を見た日奈美と穂乃影はいよいよこれが、影仁が生きて目の前にいるという光景が現実であると受け入れ始めた。
「影仁・・・・・・本当にあんたなのね・・・・・・あんた、本当に生きてたのね・・・・・・う、ううっ・・・・・・」
「お父さん・・・・・・ううっ・・・・・・」
日奈美と穂乃影の体が震え始め、2人の目に涙が滲む。
そして、
「影仁ぉぉぉぉぉぉっ!」
「お父さんっ!」
日奈美と穂乃影は影仁に抱き付いた。




