第1935話 とある家族の再会2(1)
「影・・・・・・仁・・・・・・? 影仁・・・・・・なの・・・・・・?」
「お父・・・・・・さん・・・・・・?」
目を皿のようにして影仁の姿を見た日奈美と穂乃影は、震え掠れた声でやっとの事でそんな言葉を漏らした。7〜8年前に突然失踪した生死不明の男が目の前にいる。姿はあの時よりも多少変わっているが、日奈美と穂乃影は言葉では言い表せないような感覚で、目の前の男が影仁だと確信した。いや、正確には認識を叩きつけられたと言うべきか。
「ああ。正真正銘、俺だ。帰城影仁だ。日奈美さん、相変わらず綺麗だな。穂乃影、大きくなったな。凄い美人さんだ」
影仁は再び自分の名を言葉に放つと、2人にそんな言葉を送った。影仁の目に涙が滲む。だが、影仁はグッと堪えた。
「・・・・・・俺も驚いたよ。本当にたまたま、さっきこの辺りで父さんと出会ったんだ。立ち話で話を聞いたところ・・・・・・父さんは俺たちの前から姿を消した後、ずっと世界を旅してたみたいなんだ」
影人が嘘と真実を織り交ぜた話を語る。本当は影人は1ヶ月と少し前に影仁と会っているが、その事を日奈美と穂乃影には話せない。話せば必然的に零無の事やスプリガンの事など、影人が裏で行って来た事を話さなければならないからだ。そして、影人は日奈美と穂乃影には死んでもその事は話さないと決めていた。
「旅を・・・・・・?」
「な、何で・・・・・・?」
日奈美と穂乃影が当然そう聞き返す。本当ならば、2人とも先に聞きたい事や言いたい事があるだろうが、まだ混乱しているためか日奈美と穂乃影は影人の言葉に対する純粋な疑問の言葉を口にした。
「俺も、正直信じきれないんだけど・・・・・・」
影人はチラリと前髪の下の目を影仁に向けた。本来ならば、前髪に覆われた影人の目は影仁には見えない。だが、影仁は影人の雰囲気から目が向けられている事、そして影人がなぜ自分に対して目を向けたのかを、持ち前の勘の良さで理解すると小さく頷き、
「・・・・・・頼む」
小さくそう言った。それは影人に任せるという意味だ。影人も影仁の言葉の意味を正確に理解すると、日奈美と穂乃影にこう言葉を続けた。
「・・・・・・父さんは失踪した日に呪いをかけられたらしいんだ。ほら、俺たちがあの時旅行で泊まった旅館の近くに神社があっただろ。父さんの話だと、朝少し神社に散歩に行ったら・・・・・・悪い神と出会ったんだって。その神が神社に祀られていた神かどうかは分からないけど、父さんは理不尽にもその神から呪いをかけられた。その呪いは、一箇所には留まれない流浪の呪い。もし、その呪いに反して一箇所に留まれば・・・・・・呪いをかけられた者の最愛の人が死ぬ。だから、父さんは何も言わずに俺たちの元から去った・・・・・・らしいんだ」
「え、神・・・・・・?」
「の、呪い・・・・・・?」
影人の説明を聞いた日奈美と穂乃影がポカンとした顔になる。予想の斜め上過ぎる話に日奈美と穂乃影の理解が追いついていないのだ。ただでさえ、今まで生死不明だった影仁が急に目の前に現れて混乱しているのに、更に混乱するような話をされたのだ。理解が追いつかないのは当然であった。




