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変身ヒロインを影から助ける者  作者: 大雅 酔月
1934/2051

第1934話 とある家族の再会1(4)

「いやー・・・・・・やっぱり尋常じゃなく緊張するな」

 マンションの階段を上がり帰城家の扉の前に辿り着いた影仁は、ジッと扉を見つめながらポツリとそう呟いた。

「・・・・・・穂乃影は部活もしてないからもう帰ってる。母さんは・・・・・・正直、まだ帰ってるか分からない。早い時なら帰ってる事もあるし、まだの時はもう少し遅いから」

 マンション構内の壁に寄りかかっていた影人が影仁にそう伝える。影仁は「・・・・・・そうか」と頷いた。

「じゃあ、私はこれで失礼するわ。家族の感動の再会に私は不純物だから。じゃあね」

 シェルディアは影人と影仁にそう告げると、自分の家の扉を開け室内に姿を消した。

「・・・・・・父さん。覚悟が出来たら言ってくれ。俺が鍵を開けるから」

「・・・・・・ああ」

 影仁が再び頷く。影仁は大きく深呼吸をした。

(ああ、どんな顔をして会おう。どんな言い訳をしよう。頭の中がぐちゃぐちゃだ。心臓の音が聞こえるくらい早い。汗もかいて来た)

 数年振りに会う家族。ずっと自分が会いたいと思っていた人たちがこの中にいる。その事実が、影仁をより緊張させる。

(ああ、でも・・・・・・でも・・・・・・)

 それ以上に家族に会いたい。日奈美と穂乃影の顔が見たい。どうしようもないその衝動が影仁の中を駆け巡る。緊張や恐れを凌駕して影仁の心が、家族に会いたいという思いに支配される。ダメだった。言い訳なんてものはもう考えられない。もう我慢が出来なかった。

「影人・・・・・・頼む」

「・・・・・・分かった」

 気づけば影仁は言葉を吐いていた。影人は頷くと、鞄から自宅の鍵を取り出した。そして、その鍵で玄関のドアを開ける。ガチャリと開錠を知らせる音が小さくマンションの中に響いた。

「・・・・・・開けるよ」

「・・・・・・おう」

 影人はそう言うとドアノブに手をかけドアを開けた。影人が中に入り、影仁がその後に続く。バタンとドアが閉まった。

「すぅ・・・・・・」

 影人は1度大きく深呼吸をした。緊張しているのは影仁だけではない。影人もだ。影人は自身の気持ちを落ち着かせると、声を上げた。

「母さん、穂乃影。いるか? いたら悪いけど玄関に来てくれ。会わせたい人がいるんだ」

 影人がドア越しにリビングの方に向かってそう言うと、少ししてドアの向こうに人の気配がした。

「ちょっと何よ影人。会わせたい人って。私帰ってきたばかりなのよ。あんた、まさか彼女でも――」

「いや、お母さん。それはないよ。あの人に限って彼女なんて――」

 廊下のドアを開けて日奈美と穂乃影が姿を現す。日奈美は仕事着であるスーツ姿、穂乃影はラフな部屋着姿だった。2人は最初影人を見て、その次に影人の横にいる影仁に目を向け、固まった。

「「・・・・・・」」

 日奈美と穂乃影は驚愕を通り越して、呆けたような顔で、まるで夢を見ているかのような顔で、影仁を見つめた。

「あー、その・・・・・・久しぶり。本当に・・・・・・本当に久しぶり。日奈美さん。穂乃影。帰城影仁・・・・・・ただいま帰って来ました」

 影仁はほとんど変わらぬ最愛のパートナーと成長した娘を見て、感無量といった様子でぎこちない笑みを浮かべた。


 ――こうして、とある家族の再会は果たされた。

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