第1932話 とある家族の再会1(2)
「っ、嬢ちゃん・・・・・・」
このタイミングでシェルディアと出会うとは思っていなかった影人が少しだけ驚いたような顔にな
る。
「っ・・・・・・」
だが、影仁は明確に息を呑むほどに驚いていた。それは、シェルディアのあまりの美しさゆえにか。初対面の者に対してそれほど驚く原因は、考えられるならばそれくらいしかない。実際、シェルディアは人形のように美しいのだから。
「・・・・・・?」
しかし、影仁が息を呑んだ原因はそのような理由からではないと、隣にいた影人には思えた。影仁から緊張とほんの少しの恐怖のようなものを感じたからだ。影人は小さく首を傾げた。
「そして、あなたは・・・・・・初めて見るわね。こんにちは。私はシェルディア。影人の隣人よ」
「隣人・・・・・・そ、そうか。俺は影仁。帰城影仁です。よろしくお願いします」
シェルディアが影人の隣にいた影仁に目を向け挨拶の言葉を述べる。影仁は戸惑った様子を隠し切れずにシェルディアに頭を下げた。
しかし、その仕草は少し不自然だった。明らかに自分よりも歳下の少女に対して言葉遣いも態度も丁寧過ぎた。中には子供に対しても言葉や態度が丁寧な大人もいるが、影仁は子供には気さくに明るく話すタイプだった。その事を知っている影人はそこにも疑問を抱いた。
「帰城影仁・・・・・・あなた、まさか影人のお父さん?」
「は、はい。そうです」
影仁の名前を聞いたシェルディアは驚いた様子で影仁にそう聞き返した。影仁は謙虚な様子でコクコクと頷いた。
「そう・・・・・・言われてみれば、雰囲気というか気配が似ているわね。そして、あなたの態度がどうしてそこまで丁寧なのかも分かったわ。あなたが私に抱いている感情は畏怖・・・・・・あなた、私の正体に気がついているわね」
「なっ・・・・・・」
シェルディアがズバリとその事を指摘した。影人はまさかといった顔で影仁に顔を向ける。シェルディアと影仁が出会ってまだ5分も経っていない。しかも、その間シェルディアは自身が人ならざるモノであるという素振りを全く出していない。シェルディアが人ならざるモノであると気づけるはずがないのだ。少なくとも、影人や他の者は初対面では気づけなかった。
「・・・・・・って事はやっぱりそうか。あんた、人間じゃないんだな」
「ええ。私は吸血鬼と呼ばれる存在よ。でも、驚いたわ。初対面で私が人間ではないと見破った者はほとんどいなかったから。しかも、あなたは神職や聖職の血を受け継ぐ者でもない。ただの人間が、数瞬間の内に私の正体に気づくなんて・・・・・・ふふっ、さすがは影人の父親ね」
影仁が観念したように息を吐く。シェルディアは称讃の笑みをたたえた。
「教えてくれないかしら。どうして、私の正体に気がついたの? 一応、上手く隠しているつもりなのだけれど」
「・・・・・・俺は数年間、世界を旅して来てね。その間に色々な事や色々な人に出会った。・・・・・・その中には、普通じゃ考えられない現象や人間じゃない超常の存在もいた。あんたは3年前くらいに中国で出会った仙人と同じような気配がしたんだ。俺、勘だけはいいんだ」
いつの間にかすっかり言葉を崩した影仁がシェルディアにそう答える。影仁が丁寧な態度でシェルディアに接していたのは、シェルディアが未知の人外であったからだ。影人の反応などから、影人もシェルディアが人外であると知っていると悟った影仁は、シェルディアが自分たちに危害を加えない者であると直感で理解し、自然と言葉を崩したのだった。




