第1928話 父の帰還(3)
「わあ、素晴らしいほどのボッチ飯ね。でも、こんな静かな場所でなら1人ご飯もいいかもしれないわね」
「そうですね。たまには外で食事をするのもいいかもしれません。まあ、帰城影人と共にというのが少し気に食わないですが」
「やあ、帰城くん。こんにちは」
「君は本当に1人が好きだね影人。感心するというか呆れるというか」
明夜、イズ、光司、暁理がそれぞれそんな言葉を発する。陽華を含めた5人の姿を見た影人は、驚きと絶望が入り混じったような顔になった。
「お、お前ら・・・・・・何でここに・・・・・・」
「帰城くん、お弁当を持って食堂以外の場所に行ったから、もしかしたら外で1人でご飯食べる気だったのかなって。私たちも今日は天気がいいから外でご飯食べたいなって思ったんだ」
「だったら他の場所に行け。ここは俺が使ってるんだ。見りゃ分かるだろ」
影人は事情を説明した陽華に対しそう言葉を返した。すると、暁理がこう口を挟んできた。
「別にこの場所は君の場所じゃないだろ。僕たちもここでご飯を食べる権利はあるはずだよ。いいかい、影人。僕たちはたまたま君の隣でお昼ご飯を食べるだけだ。君には何もつけれる文句はないはずだよ」
「はっ、だったら俺は違う場所に行かせてもらうぜ。それも俺の自由だろ」
影人は弁当箱の蓋を閉めて立ち上がり、この場を去ろうとした。だが、そんな影人に光司がこんな言葉をかける。
「まあまあ帰城くん。ここなら僕たち以外には誰もいないし目立つ事はないよ。君も今から1人で昼食を食べる場所を探すのは大変だろうし、ここにいればいいんじゃないかな?」
「俺を舐めるなよ香乃宮。俺は孤独で孤高の男だ。昼休みだろうが、1人で飯を食える場所なんざいくらでも知ってるんだよ」
「自慢するところですか。もう放っておきましょう。陽華やあなた達の気遣いも理解できない男です。そんな者に気遣いをしても意味はない」
影人の言葉を聞いたイズは呆れ切った顔でそう言った。だが、その言葉に明夜と陽華がかぶりを振る。
「ううん。それは違うわよイズちゃん。私たちのこれは気遣いじゃなくて我儘よ。迷惑をかけてるのは私や陽華だから」
「そうだよ。それに、例え気遣いだったとしてもねイズちゃん、気遣いに意味を求めちゃダメだと思う。気遣いとか善意に意味を求めちゃったらね、それって悲しいと思うから」
「っ・・・・・・」
明夜と陽華の言葉を聞いたイズはハッとした顔になった。イズは気づいたのだ。それは、2人が自分が救ってくれた事にも意味を求める事になるのだと。陽華と明夜は何か意味を求めてイズを救ってくれたのではない。ただ無償の善意をもってイズを救ってくれたのだ。例え、最初は押し付けられたとしても、イズはここにいる。今ではあの時救われて良かったと思って存在している。それは、陽華と明夜が意味を求めなかったからだ。
「・・・・・・そうですね。きっと、それが正しい。すみません陽華、明夜」
イズは素直に2人に謝罪した。謝罪を受けた陽華と明夜は「いや、謝るほどの事じゃないから!」「そうよ。あくまで私たちがそう思うってだけだから」と首を横に振った。
「・・・・・・ちっ」
イズと陽華と明夜のやりとりを聞いていた影人は舌打ちをすると、その場に座り直した。




