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変身ヒロインを影から助ける者  作者: 大雅 酔月
1925/2051

第1925話 転校生 イズ2(5)

「私はただ私のやりたいようにしているだけよ。陽華と明夜に救われたあなたがこれからどうやって生きていくのか、またどんな変化を重ねていくのか・・・・・・私はそれが見たいだけ。それに、居候ならあなたの他にもたくさんいるわ。だから、本当に気にしないで」

 大人の余裕を存分に見せつけるシェルディア。そんなシェルディアに「お世話になってます」とキトナが軽く頭を下げ、お茶の用意をしていたぬいぐるみも「ありがとう!」といった様子でペコリとお辞儀をした。

「ふふっ、一応よろしいとでも言っておきましょうか。ああ、そうだ。もう1人の居候のあの子、キベリアはどうしたのかしら? まだ部屋にこもっている感じ?」

 お茶の用意が整い紅茶に口をつけたシェルディアは上機嫌な様子だった。シェルディアはぬいぐるみにキベリアの動向を尋ねた。

「!」

 すると、ぬいぐるみが何やら身振り手振りでジェスチャーをした。影人にはぬいぐるみが何を伝えたいのか分からなかったが、シェルディアには伝わったらしい。

「なるほど。キベリアはお風呂に入って二度寝をしたのね。全く、怠惰を絵に描いたような子だこと・・・・・・」

「あはは、キベリアさんはのんびりさんですからね」

 呆れた顔を浮かべるシェルディアにキトナは苦笑いを浮かべる。面倒くさがり屋の影人は、働かず自由に寝れるキベリアに内心で「いいなー」と思った。

「あ、そういえば、イズさんが苗字にしたフィズフェールってあれ、フェルフィズさんの事ですよね? 別にそのままフェルフィーズとかでもいいのではと思ったんですけど、どうしてフィズフェールにしたんですか?」

 紅茶を飲みながら茶菓子を摘んでいたキトナがふとそんな疑問を述べた。どうでもいい事だが、シェルディアが頼んでいた茶菓子は有名な「た◯や」、もしくは「クラ◯ハリエ」のバームクーヘンで、影人はバクバクとバームクーヘンを食べていた。普通に美味すぎたのである。

「それは・・・・・・」

 イズが影人の方に目線を向ける。その視線に気づいた影人はバームクーヘンを咀嚼し終えると、キトナの疑問に答えた。

「フィズフェールっていうのは、昔フェルフィズの奴が俺やレイゼロールに名乗った偽名なんだ。イズの設定を決める際にその話をしたら、苗字はそれにするってイズが決めたんだよ」

「・・・・・・製作者との繋がりが欲しかったのです。製作者は2つの世界を大混乱に陥れようとした許されざる大罪人です。ですが・・・・・・私にとってはただ1人の親です。私はしばらくの間、もしくは永遠に製作者とは会えない。子は親との繋がりを求めるものだと読んだ本に書かれていました。だから、私は名前に製作者との繋がりを残したのです。かつて、製作者が名乗っていた名前を自分の名前と繋げて」

 影人の答えに続くように、イズがフィズフェールという苗字に決めた理由を話す。イズの話を聞いたキトナは感動した様子になった。

「そうでしたか・・・・・・よく分かりました。イズさんの苗字には素敵な思いが込められているんですね」

「そうですね。そう言っていただけると・・・・・・嬉しいです」

 イズは小さく笑みを浮かべた。表情を崩したイズを見たシェルディアと影人は、

「ふふっ、いい顔ね」

「ふっ・・・・・・」

 自分たちも口元を綻ばせたのだった。

 ――こうして、小さな茶会は何事もなくのんびりと、平和に過ぎていった。

 








「――おーい、着いたぞ兄ちゃん! 日本だ!」

 とっぷりと夜の闇に暮れた海の上。船を運転していたアメリカ人の男性が英語でそう言った。アメリカ人の男性は50代くらいの日に焼けた筋骨隆々とした男で、焦茶色の髪を五分刈りにしていた。

「・・・・・・ん〜? ふぁ〜、何だ・・・・・・?」

 船長と思わしきその男の背後で毛布にくるまって寝ていた男が目を覚ます。ボサボサの黒髪に伸び放題の無精髭。あまり清潔とは言えない見た目をしていたその男は30〜40代くらいの東洋人であった。男は眠たそうに目を擦りながら、自分を起こした男の方に顔を向けた。

「シャキッとしな! もう後少しで陸に上がるんだからよ!」

「光がたくさん見える・・・・・・ああ、日本に着いたのか。分かった。ありがとう船長」

 東洋人の男には船長が話す英語はよく分からなかったが、港の光を見た男は状況を理解すると、グッと船長にサムズアップした。船長も男に対してサムズアップを返した。

「いやー、何だかんだ色々な場所を回っちまって、帰って来るのが遅くなっちまったぜ・・・・・・」

 男は立ち上がり軽く伸びをした。当初の予定ではもう少し早く日本に帰って来る予定だったのだが、世話になった人々にお礼巡りをしていたら思っていた以上に長くなった。放浪していた期間がそれだけ長かったという事だろう。

「さてと・・・・・・ただいまだな。俺の母国」

 そして、男はぐんぐんと迫る港を見つめそう呟いた。

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