第1922話 転校生 イズ2(2)
「ふぅ、やっと終わったか」
午後4時過ぎ。影人は軽く息を吐きながら鞄を手に取った。全ての授業が終わりすっかり放課後だが、影人は教室の掃除当番だったため、今まで帰れなかった。
「さて、今日はどうするか。春野も用事があるとかで先に帰ったし・・・・・・」
学校を出た影人は一応家に向かってぼんやりと歩いた。このまま家に帰ってだらだらとだらけるべきか、それともどこかで道草を食うか。何とも悩ましいところだ。
(ああ、しかしようやっと全部が終わったんだよな。2回目に生き返ってからこっち、何だかんだずっとゴタついてたからな・・・・・・)
最初は零無、そして間もない内にフェルフィズ。零無とは文字通り死闘を繰り広げ、フェルフィズに関しては世界を超え異世界に行き、その異世界でも激闘を繰り広げた。そして、つい2週間前ほどの最終決戦だ。こうして振り返ってみると、平和のへの字もない。いや、ところどころ穏やかな時間はあったかもしれないが、それでも戦いの印象の方がどうしても強い。
「・・・・・・決めた。今日は家に帰ってダラダラしよう。せっかく勝ち取った安穏を存分に貪ろう」
道草を食うのも立派な安穏だが、家でダラダラとする方がより安穏を享受している気がする。影人はそのまま真っ直ぐ帰路についた。
「・・・・・・げっ」
影人がのんびりと歩いていると、前方に見覚えのある背中が見えた。影人は思わず朝と同じ声を漏らした。
「・・・・・・聞こえていますよ。失礼な声が。全く、学びのない男ですね」
見覚えのある背中が振り返り、影人にそう言ってくる。イズだ。イズは軽蔑の色が込もった目で影人を見つめた。
「学び云々の問題じゃねえよ。反射的な反応の問題だ。苦手だったり嫌いなモノがあれば人間はこういう反応になるんだよ」
「弁解になっていませんよ。やはり、あなたは愚鈍・・・・・・端的に言ってバカのようですね、帰城影人」
「知らねえのか? バカって言う方がバカなんだよ。学びが足りてねえんじゃねえか」
明確に影人を侮蔑する目になったイズを影人は嗤った。
「というか、何で今の声が聞こえるんだよ。普通なら絶対に聞こえないくらいの声だっただろ」
「この体は人間のものではありません。一応は神の名を冠する器です。兵装こそ凍結封印されていますが、それ以外の機能はそのまま。視覚や聴覚も人間のそれよりも遥かに良いものです」
いつの間にか並んで歩きながら、影人とイズは言葉を交わす。普通ならば外で、しかも制服姿のイズと影人は並んで歩きたくないのだが、最終的に帰る方角が一緒であるのと、既に周囲に風洛高校の生徒の姿が見えないという要素が、影人に仕方がないといった気持ちを抱かせた。しかし、万が一もあるので影人は周囲に気を配り続けた。




