第1921話 転校生 イズ2(1)
「なあ、3年に転校してきた人見たか? すっげえ綺麗で可愛かったぜ」
「ああ。あれはヤバいな。メチャクチャ綺麗だった。流石は外国の女の子っていうか、人種の違う綺麗さだよな」
「いいよな。イズ・フィズフェールさん・・・・・・月下先輩とは違って、本物のクールビューティーって感じだし」
「もう既にファンクラブも出来てるからな。かくいう俺もファンクラブメンバーだ」
自分のクラスである2年7組に到着し席に着いた影人の耳に、同じクラスの男子生徒たちの会話が聞こえて来た。
「・・・・・・本当、人気だな」
影人はボソリとそう呟いた。非公式のファンクラブなんて存在をまさか現実で聞く事になるとは。まあ、確かにイズの精緻極まりない見た目とミステリアスとも取れる雰囲気が人気になる理由は分かるが。しかし、それにしてもだ。
「ですよね。でも、人気が出るのも分かります。僕も1度フィズフェールさんを見ましたが・・・・・・本当に綺麗で美しい方でしたから」
影人の呟きを聞いた隣の席の海公が同意するように頷く。影人は意外そうな顔で前髪の下の目を海公に向けた。
「へえ、春野がそんな事を言うなんてな。惚れたのか?」
「ほ、惚れ!? い、いやそんなんじゃないですよ! ただ純粋にそう思っただけです! もう! 揶揄わないでください!」
「ははっ、悪かったよ」
カァと顔を赤くしフイと顔を背けた海公を影人は微笑ましいと思った。
「そういう帰城さんはどうなんですか? 僕、帰城さんが異性に対して関心を持っているところあまり見たことないですけど」
意趣返しのつもりか海公がそんな事を聞いてくる。だが、影人は恥ずかしがるような事もなく、海公にこう答えた。
「俺もまあ、フィズフェールの見た目については綺麗だと思うぜ。だがそれ以上は何にも思わねえな。異性云々も・・・・・・今は大して興味もないな」
それは影人の正直な気持ちだった。零無との決着をつけて以来、影人は恋愛感情を取り戻した。しかし、長年恋愛感情がなかったからか、影人の中に異性に対する興味のようなものは、全くといっていいほど湧き上がってくるような事はなかった。
「そうなんですか・・・・・・やっぱり、帰城さんは格好いいですね。いつもクールで大人の男って感じです」
「春野・・・・・・ふっ、褒めても何も出ないぜ。まあ取り敢えず、昼休みにジュース奢ってやるよ」
海公に尊敬の目を向けられた影人は、嬉しさを堪えきれないようにニヤけた。普段色々な意味でキモすぎてストレートに格好いいと言われる事がない前髪野郎には、海公の言葉はクリティカルヒットだった。その証拠に、何も出ないと言っているくせにしっかりとジュースが出ている。何というか、単純な奴である。
「え、いいですよ」
「いいんだよ。同級生だが、たまには先輩風吹かせさせてくれよ」
海公は申し訳なさそうに首を横に振ったが、影人は気分が良さそうに押し切った。
「おっはよー☆ いやー、今日は危なかったー! 遅刻ギリギリセーフ!」
「あ、魅恋じゃん。おはよー」
「おはよー霧園」
教室内に明るい声が響いた。魅恋だ。クラスの中心的人物の登場でクラスが活気付く。一気に教室が騒がしくなった。
「あー、眠い・・・・・・昨日飲み過ぎたな・・・・・・おいお前ら、席に着けー。ホームルーム始めるぞ」
魅恋が教室に入ってすぐに紫織も入室してきた。紫織の言葉で席を立っていた生徒たちは席に着く。そして、いつも通り面倒くそうな紫織の声でホームルームが始まった。




