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変身ヒロインを影から助ける者  作者: 大雅 酔月
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第192話 己の内へと(4)

「――準備はいいですか? 影人」

「ああ、いつでも大丈夫だ」

 ソレイユの言葉に影人は帽子のつばを触りながらそう答えた。ソレイユに悪意の正体を話し、その上で対処法として「自分の精神世界に自分の意識を飛ばすことは出来るか」と影人が聞いたところ、ソレイユは「可能です」と頷いてくれたのだ。

 よって今の確認はその準備が整った事に対するものだ。

「しかし・・・・・・・・こうして変身したあなたを生で見るのは初めてですね。しかも腹の立つことに、あなた顔整ってますし・・・・・・・・前から疑問だったのですが、なぜ影人は髪で顔を隠しているのですか? その顔なら恋人の1人や2人なら出来そうなものですが」

「うるせえ、余計なお世話だ。別にいいだろ、俺の自由なんだから」

 金色の瞳でソレイユに目を向けながら、影人はそう言葉を返した。今の影人はスプリガンに変身していて、普段長い前髪に覆われている顔が明らかになっている。

 なぜ影人がスプリガンに変身しているかと言うと、それが必要な事だからだ。悪意が干渉してきたのは限定的。スプリガン時に限ってのみ。スプリガンに変身している事。それが精神世界に入る前の準備だ。

「つーかこの帽子、認識阻害の効果あるんじゃなかったのか? お前普通に俺って分かってるが」

「それは元々私があなたに授けた力ですよ? 私だけが唯一の例外なのです。だからそこは心配しないで下さい」

「そういうもんか、了解だ。んじゃ、ちゃっちゃかやってくれ」

 砕けた口調で影人はあくびをした。基本的にスプリガンになっている時はシリアスな状況しかないため、影人は口調を意図的に変えているが、今はいいだろう。話しているのは自分の正体を知っている唯一のポンコツ女神。口調も普段と変えようとするのは何かおかしい気がする。

 ちなみにスプリガン時の自分は「・・・・・・・・(沈黙)」多めになる傾向がある。だってその方がクールっぽいじゃん?

「分かりました。では、神の力の一端をお見せしましょう。――来なさい、私の神杖しんじょう

 厳かに女神はそう唱えた。心なしか、少しドヤ顔なのは気のせいだろうか。

 ソレイユの言葉を受け、虚空より桜色の装飾で飾り付けられた杖が出現した。ソレイユはその杖を持つと、影人に静かに語りかけた。

「影人、意識を集中して下さい。これからあなたの意識をあなたの精神世界へと送ります。その際あなたの肉体は無防備になり、つまり傍目から見れば意識のないような状態になりますが、その事によってあなたの変身が解けることはありません。精神世界に行くというのは、意識を失うという事ではありませんから。ただ、深く深く己の内側へと潜るという事ですからね」

 ソレイユの杖の先が桜色の光に包まれた。ソレイユはその光を影人の前へと突きつけた。

 影人がソレイユに言われた通りに意識を集中していると、ソレイユがある言葉を紡いだ。

「光の女神『ソレイユ』の名において命ずる。彼の者の意志を、内なる世界へと誘え」

 光が一際に強く輝く。すると、影人にある変化が訪れた。

(意識が・・・・・・・・・・)

 まるで強烈な眠気に襲われたような感覚だ。どんどんと意識が薄弱になり、闇が迫ってくる。

「・・・・・・・・・・」

 そして、影人は己の内なる世界へとその意識を旅立たせた。

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