第1918話 転校生 イズ1(3)
「・・・・・・この話、嬢ちゃんはどう思ってるんだ?」
影人はイズの隣に座り優雅に紅茶を飲んでいたシェルディアにそう振った。シェルディアは紅茶をソーサーに置くと、影人の方に顔を向けた。
「もちろん賛成よ。だって、面白そうでしょう?」
「まあ、嬢ちゃんならそう言うよな・・・・・・」
ニコニコと笑うシェルディアを見た影人が苦笑する。不死のシェルディアの判断基準は常に面白いか面白くないかだ。それ以外の要素が絡む方が珍しい。
「その話、朝宮と月下にはしたのか?」
「いいえ。まだです」
「そうか。まあ、あの2人は聞くまでもなくもちろん賛成だろうがな・・・・・・ん? 待てよ。あいつらの通ってる学校に行きたいって事は、お前俺も通ってる高校に来たいって事だよな?」
「はい」
「マジかよ・・・・・・」
思わずといった様子で影人はそんな言葉を漏らした。かつての敵が同じ学校に通うというシチュエーションは漫画や小説などではよくある事だが、実際にそれが起こる事になるとは。別に嫌というほどでもないが、何となく日常が更に非日常に侵食される感じが、影人を微妙な心持ちにさせた。
「あなたは反対ですか? 一応、監視という観点からもそちらの方が合理的ではないかと考えますが」
「いや、別に反対ってわけじゃない。それに、お前の言う通り、俺や朝宮や月下っていう監視者の役割からしてみても、お前が学校に通う方がいい。俺たちの役割は名目上のものじゃないからな」
影人はかぶりを振った。だが、影人は難しそうな顔でこう言葉を続けた。
「ただ、いざ実際にお前が学校に通うってなると、色々問題があるなっていま思った。その中でも1番問題なのは・・・・・・お前の来歴、もっと言えば戸籍だ」
「戸籍・・・・・・ですか」
「ああ。いまお前は嬢ちゃんの家にいるから目下それは必要ない。だが、学校に通うってなれば絶対にそれが必要になってくる。いつどこで生まれて、どんな学校に通ってきたか・・・・・・お前が何者であるのかの証明がいるんだよ。だが、当然ながら・・・・・・」
「私にそんなものはない、ですか」
影人の言葉の続きをイズが引き継ぐ。影人は今度は首を縦に振った。
「ああ。お前は魔機神の器に宿ったフェルフィズの大鎌の意思。そもそも人間じゃない。差別だとかそんなんじゃなくて、これは単純な事実だ」
「そうね。今の人間社会は戸籍がないと色々不便よ。どこかに属したりするなら必須だわ」
影人の言葉にシェルディアが同意する。影人は「あ、そういえば」とシェルディアにこう聞いた。
「嬢ちゃんは戸籍どうしてるんだ? 嬢ちゃんも長いことこっちの世界にはいるけど、元々はあっち側で戸籍はないよな」
「偽装の戸籍はあるわよ。定期的に催眠の力で役人に作らせるから。その他の大体の面倒事も、私の場合は催眠で何とかなるわ」
「おおう・・・・・・さすが嬢ちゃんだな」
もはや引いた様子で影人が感想を漏らす。影人はシェルディアの何でもありっぷりを改めて叩きつけられた。




