第1913話 囚われの忌神、イズの処遇(2)
「・・・・・・それで、改めて何の用です? あなたがここに姿を現すのは、私をここに入れた日以来。世間話か、懐かしい話でもしに来ましたか。それとも、もっとまともに尋問ですか」
「そうじゃな。いずれは尋問も必要じゃ。世間話や懐古話も・・・・・・今は無理じゃが、いつか出来ればいいの。じゃが、今日ワシが来たのはそのどれでもない。ワシが今日来たのは・・・・・・お主にある事を伝えるためじゃ」
「ある事・・・・・・ですか」
フェルフィズの絶望に染まった瞳の中に、ほんの少し疑問の色が混ざる。ガザルネメラズは小さく頷いた。
「うむ。この事だけはお主に伝えておいてもよいと『空』様が仰った。その内容とは、お主が作った忌むべき神器『フェルフィズの大鎌』の意思・・・・・・イズの今後の処遇についてじゃ」
「っ・・・・・・」
その言葉を聞いたフェルフィズの顔色が変わる。今まで生気のなかった顔に気力の一端が宿る。フェルフィズはイスから立ち上がり、両手で鉄格子を掴んだ。
「・・・・・・それで、あの子はこれからどうなるのですか」
フェルフィズは静かにそう問うた。言葉こそ平坦に聞こえるが、フェルフィズの目には様々な感情の炎が確かに揺らいでいた。ここ最近で1番感情的だ。ガザルネメラズはそんなフェルフィズを至近距離から見つめる。
「・・・・・・安心せい。悪い結果にはならなかった。イズの処遇を巡る話し合いには様々な立場の者が参加した。お主が引き起こした戦いはそれだけの者たちを巻き込んだからの」
ガザルネメラズは数日前に行われた話し合いの事を思い出した。話し合いが行われた場所は地上世界のとある喫茶店。真祖が営む世にも珍しい喫茶店だ。その喫茶店の裏庭で行われた話し合いには、真界の最高位である『空』であるシトュウ、神界の長であるガザルネメラズ、冥界の最上位に位置するレゼルニウス、向こう側の世界の実力者である古き者たち――シス、シェルディア、ハバラナス、レクナル、ヘシュナ、白麗――、地上の神であるレイゼロール、イズを救った者である陽華と明夜、そしてフェルフィズを裁いた者である影人、当事者であるイズが参加した。
話し合いに参加した者は10人を超えたため、話し合いの会場であった裏庭では少し狭く感じられた。そのため、地上でも神としての力を振るう事が出来るシトュウが空間を拡張させる力を使用し、全員が腰掛ける事の出来る円卓を創造した。
ちなみに、冥界の神であるレゼルニウスは本来は地上に現れる事も干渉する事も出来ないが、その理は既にフェルフィズの大鎌で殺されたため、地上にやって来る事が出来た。殺された因果は不可逆で戻らない。そのため、レゼルニウスはこれからいつでも地上に移動する事が出来る。愛する妹にいつでも気軽に会いに行けるという事実に、レゼルニウスは狂喜していた。あれほど喜んでいるレゼルニウスを見るのはガザルネメラズも初めてで、レイゼロールに至っては少し引いたような、何とも言えないような顔だった。




