第1910話 全ての因縁の決着(4)
「・・・・・・何だ。何か用か?」
「用というほどの用では。ただ・・・・・・」
イズは微妙な顔で何か言葉を続けようとした。だが、その時空から光の柱が地面に向かって降り注いだ。その光の柱にその場にいた全ての者の注目が集まった。当然、影人とイズの注目も。結果、影人とイズの話は中断された。
「――いったい何年ぶりじゃろうな。地上に降りるのは」
光の柱が収束すると、1人の老人が姿を現した。堀の深い顔に長く白い髭。簡素な白の貫頭衣に白のタスキ。突如として光臨したその老人が何者であるのか知っている者は限られていた。
「っ・・・・・・」
「来てくれたか・・・・・・ガザルネメラズさん」
その限られた者であるレイゼロールは少し驚いたような顔になり、影人は彼の名を呼んだ。
「っ? 君は・・・・・・」
ガザルネメラズは自分の名を呼んだ影人を見つめると、不可解そうに首を傾げた。その様子は、まるで影人が誰だか分からないようだった。
「っ・・・・・・ああ、そうか。スプリガンの認識阻害で俺が誰だか分からないのか。俺ですよ。以前お会いした帰城影人です」
影人が帽子を取りガザルネメラズに自身の正体を告げる。帽子による認識阻害の力が取り払われ、更には影人が自身の正体を開示した事によって、ガザルネメラズは影人が誰であるのか分かった。
「おお、君か。なるほど。その姿がソレイユの神力を使って変身した姿か。確か、その装束には認識阻害の力が施されているという話じゃったな。ワシが分からなかったのはそのためか。いやはや、しかし・・・・・・前髪が少し短くなっただけで、随分と男前じゃの」
「ありがたいですけど、世辞は大丈夫です。それよりも・・・・・・」
好々爺とした笑みを浮かべるガザルネメラズに、影人は小さく笑い返す。そして、隣にいるフェルフィズに視線を移した。
「うむ・・・・・・分かっておるよ。久しぶりじゃな・・・・・・フェルフィズよ」
ガザルネメラズは様々な感情を乗せた声でフェルフィズの名を呼んだ。名を呼ばれたフェルフィズはゆっくりと面を上げた。
「ガザルネメラズ・・・・・・あなたがですか? 見ないうちに随分と老けましたね」
「・・・・・・もうすっかり古き神じゃからな。この姿の方が威厳があるんじゃよ。そういうお主は変わらんの。あの時のままじゃ」
ガザルネメラズは複雑な感情が交錯する顔でフェルフィズを見つめた。そうしていると、己の内から懐かしい記憶が湧いてきた。
「・・・・・・影人くん、それにこの場にいる者たち、その他この場にはいないが協力してくれた全ての者たちに感謝する。多大なる感謝を。そして、謝罪を。ワシらの不手際が今回の事態を引き起こした。あの時、ワシらがしっかりとフェルフィズの死を確認しておけば・・・・・・まことに申し訳ない」
ガザルネメラズは深く深く頭を下げた。ガザルネメラズはしばらくそのまま頭を下げ続けると、やがてゆっくりと頭を上げた。
「・・・・・・では、フェルフィズの身柄を預からせてもらおうかの。神界で一生フェルフィズを幽閉する。それでいいのじゃな?」
「はい。それが今のこいつにとって1番の罰ですから。こいつが生きたいと思ったその時に・・・・・・俺がこいつを殺します。それまではどうかよろしくお願いします」
「うむ・・・・・・分かった。フェルフィズの処遇を決める権利は実際に戦った君たちにある。今度こそ、フェルフィズを自由にはさせんと誓おう。じゃが・・・・・・」
ガザルネメラズは視線をイズに、正確にはイズの持っている「フェルフィズの大鎌」に向けた。ガザルネメラズが何を言いたいのか察した影人は、帽子を被り直した。




